殺人事件の2割が夫婦間で起きている背景事情 全体は減少傾向にあるが親族間は増えている

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元来、暴行・傷害・殺人事件は女性より男性の加害率が高く、それは、国や民族や文化が違っていても同じ傾向です。そして、男性が殺すのは大部分が男性です。しかし、近年の日本の夫婦においては、その法則が通用しなくなりつつあるようです。

もちろん、全体の夫婦数からみれば、警察沙汰になるような夫婦間の暴力事件は年間数千件で、さらに夫婦間殺人事件は年間150件程度と比率にすれば微々たるものです。しかし、前述の内閣府の調査で比率を全体に掛け合わせてみれば、5%の夫婦、年間100万組の夫婦が相手からの暴力を受けているという計算にもなります。せめて、殺人事件にまで至らないような手立てが望まれます。

1人で悩まずまずは警察に相談を

結婚当初は愛を誓い合った2人が一方を殺してしまう結末は悲しいものがあります。残された子がいるとするならなおさら不憫です。前述した、岩手県久慈町での妻が夫を殺害した夫婦には、16歳の子どもがいました。妻は夫殺害後、子どもも殺して自分も死のうと心中まで考えたようです。結果、この妻には、懲役8年の実刑判決が言い渡されました。

日常的な夫の暴力に、この妻が自分の身の危険を感じてしまうのは致し方ないことと思いますが、暴力に対して殺害という応報をする前に、何か別の選択肢はなかったのだろうかと、思わざるをえません。

男だから、女だから、ということは関係ありません。言葉による精神的虐待も含めて暴力は、配偶者暴力防止法の対象となります。保護命令違反に対しては懲役刑もあります。

「警察に相談しても無駄」ということはありません。我慢するより、対決するより、1人で悩むより、何よりまず、警察などに助けを求めてほしいと思います。まず、その追い詰められた環境から離れることを最優先してもらいたいと思います。「まだ耐えられる」は危険です。殺さない、殺されない、そして、何より自分や子どもの未来も殺さないでください。

荒川 和久 独身研究家、コラムニスト

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あらかわ かずひさ / Kazuhisa Arakawa

ソロ社会および独身男女の行動や消費を研究する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、がある。

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