一見おっかない「ドヤ街の管理人」の凄い人情味 日本3大ドヤ街「横浜・寿町」の人間模様

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だが、現金を預かると、渡した渡さないでトラブルになるリスクがある。だから岡本は各自の名前を書いた封筒に保護費を入れて保管し、出納の際には、本人の目の前でその様子をビデオに録画している。

「封筒と相手の顔を撮っておいて、トラブルになったらビデオを見せるんだけどさ、ビデオを見せても『これは俺じゃない』って言い張る人がいるんだよなぁ」

とくに、アルコール依存症の人には現金を渡さない配慮をしている。例えば銭湯に行きたいと言ってきたら、常備してある入浴券を1枚だけ渡す。アルコール依存症の人の多くは、一滴でも飲めばブラックアウト(意識消失)するまで飲み続けてしまうから、わずかな現金でも直接手渡さないように注意しているのだ。

「だって、100円でお酒が買えちゃうんだからね」

こうした岡本のこまやかな配慮によって、精神の人が治癒した例があるという。仮にUさんとしておくが、Uさんは昨年末にやってきたばかりの新参者で、盗癖があった。

「掲示板のポスターを剥がしたり、タバコの自販機にぶら下げてたタスポなんて4枚もとっちゃった。全部、防犯カメラに写ってたから、部屋に行って返してくれって言ったら、持ってない。盗んだんじゃないって言うんだよ」

それからしばらくの間、岡本はUさんを徹底的に観察することにした。すると意外な事実がわかって、文字どおり、目からウロコが落ちる経験をしたという。

「よくよく見てたらさ、ポスターもタスポもほしいわけじゃないんだよ。汚れてると、取って捨てちゃうんだね。要するにUさんは、極端なきれい好きだったんですよ。それがわかってから、ジュースをご馳走したり、病院に一緒に行ったりするようにしたら、盗み癖が治ったんですよ」

岡本の声がはずんできた。

「精神の人は、我慢して、我慢して観察することだよね。そうすれば、最終的には心が通じるようになる。家族に見放された人たちだから、根本はみんな寂しいんですよ」

私は岡本のことを、寿町の閻魔様のような存在だと勝手に思い込んでいた。岡本に「NO」と言われたら、最後の砦と呼ばれる寿町にすら入ることを許されない気がしていたのだ。まさか岡本が、精神の人の治癒をここまで喜ぶ人物だとは思ってもみなかった。

「でもね、部屋で焚火をするのが好きな人がいて、この人だけは退去してもらいましたけどね」

1年360日

岡本は昭和26年生まれの65歳(取材当時)、川崎の桜本で生まれた在日韓国人2世である。

実を言えば、寿町のドヤのオーナーの9割以上が在日韓国・朝鮮人によって占められており、寿町のドヤが玄関で靴を脱いでから部屋へ上がる和風旅館方式ではなく、靴のまま部屋まで行けるスタイルなのは、オーナーの多くが朝鮮人だからだという説がある。

岡本の両親は在日韓国人の1世で、いつか韓国に戻る夢を持っていた。だから岡本を朝鮮学校に入学させた。

「韓国に帰ったとき、朝鮮語がわからないと惨めだからと言ってね……。昔のこの辺りは臭い、汚い、危険だったから、日本人は(ドヤの経営を)やらなかったよね。韓国人は学歴がないし、手に職をつけるのも難しいから、体を張って日本人のやらないことをやったんですよ。それが簡宿(ドヤ)の始まりです。簡宿は、ポンとここにあるわけじゃないんですよ」

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