「ザ・秘境生活」がYouTubeに見つけた厚い金鉱 企業のチャンネル運営が直面する3つの課題

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YouTube向きの既存コンテンツがあったとしても、テレビで放送した動画をそのまま配信するだけでうまくいくとは限らない。そこでディスカバリーでは、テレビ用の動画をYouTube用に編集したり、タイトルを変えたりすることも行っている。例えば、「ザ・無人島生活」というタイトルのシリーズを、各動画の見出しでは「60日サバイバル」と表記。「無人島よりサバイバルのほうが検索されやすいためだ」(榊原氏)。

ディスカバリー・ジャパンのデービット・マクドナルド社長(撮影:今井 康一)

サムネイルや内容説明においても、YouTubeで人気を得るための小さな工夫は無数にある。榊原氏はそれらを1つひとつ、YouTubeで働いた知見も生かしながら講じている。実験期間に1日4~5本配信していた動画は、現在は1週間に2本程度に厳選。その代わり、1本ずつの細かな調整に時間を使うようになった。

YouTubeに注力すると決まった。どういうコンテンツで勝負するかも決まった。そこで最後に残るハードルは、意志決定・運用体制の構築だ。YouTubeチャンネルを企業で運営する場合、チーム制で複数人が携わるケースも多い。ただ榊原氏は「できるだけ1人でやったほうがいい」と話す。チーム体制で行えば負荷が分散する反面、意思決定のスピードが遅くなってしまうためだ。

実験・改善の高速回転がカギ

ユーチューバーたちは一般的に、企画から編成、コメント対応まですべて1人で行っている。そのため、その時々の視聴者の変化、求められる動画の変化などに瞬時に気づき対応しやすい。これが意志決定に携わる人数が増えるとなれば、小さな変更をするにもチーム内の合意を得たり、企画書や稟議を通したりといった時間が必要になる場合もあるだろう。

ツイッターやインスタグラムの運用でも同様のことが言える。直近の投稿への反応から感じたことを、次の投稿で反映し試してみる、そうして最適化を図っていくのが運用改善の王道だ。だが、1人の担当者にそこまでの裁量を持たせていいのかという議論が起こり、意思決定が遅くなるケースも少なくない。

ディスカバリー・ジャパンの場合、企画から動画のアップロード、タイトル付け、コメントの返信までそのほとんどを榊原氏が担っているという。「動画のタイトルを変えるようなときも、いちいち許可を取ってはいない。効果が出ない施策は独断ですぐに打ち切る。こうした裁量をもらえたことが、個人のユーチューバーと同じようにPDCAを素早く回すことにつながった」(榊原氏)。

マクドナルド社長の想定通り、YouTubeの強化で有料放送の既存顧客が減ることはなく、むしろ今まであまりリーチできていなかった20代、30代の層にディスカバリーの認知が高まった。また、「視聴者同士のコメントのやり取りなどでファンコミュニティを醸成できた」(榊原氏)と、YouTubeならではの価値も発現できている。

メディア企業はもちろん、YouTubeの活用を深めたい多くの企業にとって参考になる事例と言えそうだ。

『週刊東洋経済』11月14日号(11月9日発売)の特集は「YouTubeの極意」です。
井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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