第7回(最終回) 「研究」を知らない文系ビジネスパーソン

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企業は人文・社会科学の研究をもっと利用すべき

実際、人文・社会科学系の修士課程を修了しても「文系修士」と呼ばれ、学部修了生と同待遇でしか採用してもらえない企業が多数あります。まして人文・社会科学系の博士課程修了者を率先して採用する会社は極めて希です。日本企業にとって人文・社会科学の研究経験は全く必要ではなく、必要性を考慮することすらほとんどなかったことがわかります。

 しかし、その人文・社会科学の研究に対するある種の偏見、実社会とは乖離していて役立たないとの誤解、それらが現在の日本企業の,日本社会の停滞の原因となっている可能性を考えてください。今ほど「考える」ことが求められる時代はこれまでありませんでした。人文・社会科学の研究を利用できる力、それこそが今後の日本企業、日本社会発展の鍵なのです。

 そして、これまで研究を経験したことがないビジネスパーソンの皆さん。まだ遅くはありません。未知の問題に対処し、企業競争力を高め我が国経済再生のため、ぜひ研究を経験してください。少なくとも体験してください。そしてその際には上手に大学を使ってください。

 ここまで、長い議論にお付き合いいただき、ありがとうございました。

付記
 筆者はしばしば、大学や大学院で学びたいという人から、どうやって指導教官を選んだらいいか、と聞かれます。現在我が国の経営系の大学院には、研究を経験したことのない教員、研究指導のあまり上手でない教員が多数います。

 もし、あなたが大学院に入ってビジネスの研究を経験したいと思われるのでしたら、教員の学歴や経歴、テレビ・雑誌などへの露出度だけでなく、その教員、その研究室の学生がどのような研究成果を挙げているか(どのようなところに研究成果を発表しているか)をチェックされることをお勧めします。

 そして、何より大切なこととして、入学前に実際に会って,話をして、信頼できる人かどうかを確かめてください。

藤村 修三 東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科教授

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ふじむら しゅうぞう / Fujimura Syuzo

東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科教授
1955年生まれ。1978年千葉大学理学部物理学科卒。1993年千葉大学大学院自然科学研究科博士(工学)。1978~1998年富士通株式会社、株式会社富士通研究所勤務。半導体プロセスの研究・開発に従事。その間、千葉大学、武蔵工業大学非常勤講師。1998年米カリフォルニア州にてJLM Technologies設立に参加。
1999年ANNEAL Corp. (JLM Technologiesを改称) CTO. 2002~2008年一橋大学イノベーション研究センター寄付研究部門客員教授。2005年4月より現職。
1997年科学技術庁注目発明(半導体装置の製造装置及び半導体装置の製造方法)、2001年第1回日経BP BizTech 図書賞(『半導体立国ふたたび』日刊工業新聞社)、2010年東工大教育賞受賞。

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