猟友会が「害獣駆除の決定打にならない」理由 時には罠にかかっている動物を逃がすことも

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なぜ猟友会は「獣害駆除」の決定打にならないのか?(写真:ネギ/PIXTA)
日本各地で相次ぐクマやイノシシによる獣害被害。街に下りる動物たちを駆除するのは、地元の猟友会だ。では、彼らのおかげで獣害被害が減っているかというとそういうわけでもない。「猟友会が害虫駆除の決定打になりえない理由」を、森林ジャーナリストの田中淳夫氏が解説。新書『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』より一部抜粋・再構成してお届けする。

このところ、日本各地でクマによる獣害が多数報告されている。それらの報道に必ずといっていいほど登場する組織がある。猟友会である。

「地元猟友会によって射殺」という文字列は多くの人が見たことがあるだろう。なぜ彼らが獣害の現場にいるのかといえば、有害鳥獣の駆除には専門的な技術が不可欠であり、その技術を持つのはたいてい猟友会に所属する会員だからだ。また、有害駆除を行うには役所からの依頼がなければならないが、その窓口もほとんど猟友会となっている。

こうした事情が相まって、獣害が激増する中で注目を集めている猟友会だが、寄せられる期待に反して、その実態は知られていない。時に危うい現実が浮かび上がる。

不祥事だらけの猟友会

2020年3月、環境省は、南アルプス国立公園のシカの頭数管理を行っていた山梨県猟友会が「捕獲頭数などを大幅に水増しした報告書を提出していた」と告発した。そして2018年度までの6年間で約1300万円を過大に受け取っていたとして、猟友会に過大受給分の返還と損害金を請求した。猟友会側は、公園外の駆除に従事した分を“誤認”して請求してしまったミスとしたが、返還に応じる意向だ。

鹿児島県霧島市でも、地元の猟友会が2013年から3年間でイノシシなど有害鳥獣の捕獲数を水増しして報奨金をだまし取った疑いで告訴されている。報奨金の受給には、駆除個体の写真を添付した報告書のほか、個体の尾と耳の現物を提出するのが普通だが、同じ個体を別の角度で撮影して複数の個体に見せかけるほか、尾と耳は、駆除ではなく猟期に捕獲したものを保存しておき提出するなどしたらしい。不正受給は少なくとも300件以上とみられ、金額にして数百万円に達すると思われる。

実は、駆除事業に関する事業費や報奨金などの受給に関する不正事件は、枚挙にいとまがない。表沙汰にならない分も含めて各地で発生している。いずれも駆除頭数や出動回数・人数の水増しなどが手口だが、獣害の駆除事業では不正が横行していると言ってよい。そして、その当事者の多くが、猟友会の会員なのである。

金銭だけではなく、狩猟のルール違反も犯すこともある。人家の近くや周囲の確認を怠った発砲により、人身事故も発生している。また駆除個体は、基本的に焼却か埋没させないといけないが、山から担ぎ下ろすのは大変な労力だし、山の中で穴を掘って埋めるというのも現実的ではない。多くが放置か、せいぜい土をかける程度だろう。しかし、それでは腐乱した死骸が水などの環境を汚染するだけでなく、クマなどの餌となって誘引するケースが報告されている。

日本は有害鳥獣の駆除については猟友会に頼らざるをえない状況にある。そうした責任ある立場にもかかわらず、なぜ不祥事は頻発するのか。そこで本稿では、猟友会という組織に実態について考えてみたい。

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