猟友会が「害獣駆除の決定打にならない」理由 時には罠にかかっている動物を逃がすことも

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そもそも猟友会にとって、有害駆除は仕事を休んで出動するボランティア・社会貢献活動に近いものだった。猟友会の駆除に対する認識が変わったのは、駆除に対する報奨金の額が高まったことがきっかけだろう。以前は「経費にもならない額」と嘆かれていたが、いまや1頭2〜3万円まで値上げした地域もある。これならやる気になるというものだ。

そのためか、猟友会のなかでは、誰が有害駆除に出動するか奪い合いになるケースもあるそうだ。そこに序列のようなものが生まれ、古参ばかりが権利を行使するようになり、新規参入者は駆除に参加できないこともある。

それに駆除は、容易に捕れる場所を選びがちだ。それは必ずしも被害の多い地域とイコールではない。まったく被害報告の出ていない山奥で多く仕留めてもかまわない。報奨金は獲物の頭数によって得られるから、効率よく仕留めたくなるだろう。しかしそれでは被害を抑えられない。

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それどころか「あまり獲りすぎると翌年の獲物が減るから」と、手加減する傾向もあるそうだ。農作物を狙われるのは夏から収穫を迎える秋が多いが、そこで多く獲ると、脂がのって美味しいと言われる冬に獲れなくなるからだ。獣害を抑えるための狩猟ではなく、ジビエを目的として〝持続的に獲物を獲れるようにする〞ことを意識してしまうのだ。ひどい場合は、罠にかかっている個体を逃がすそうである。

猟友会は狩猟愛好者の会であるという原点に還ると、駆除の主戦力と捉えないほいうがよい。ただ最近は、農山村の居住者が自ら獣害対策に取り組むため狩猟免許を取得するケースも増えている。彼らも慣習的に猟友会に所属するが、狩猟を愛好する会員と棲み分けて役割分担ができるかどうかはケースバイケースである。

人間同士の縄張り争い

獣害対策という点からは、プロ集団をつくるべきだとする声も出ている。駆除ばかりではなく、動物の生態に精通して農地などに近づけないよう農家を指導する役割も求められる。実際に2015年に鳥獣保護法が改正され、環境省が認定事業者制度を設け、捕獲の専門事業者を認定する制度を創設した。獣害対策を進めるため、猟友会とは一線を画した明確な義務と責任を負い、役割を定めたビジネスとして、駆除事業を担う専門家を養成し、プロの組織をつくろうという意図だ。この認定事業者は、全国に少しずつ増えている。異業種や個人が新規参入するケースもある。

ところが、なかなか上手く機能しない。理由の一つは、肝心の認定制度も既存の利権に縛られていることだ。猟友会が別組織の存在を認めたがらず、自治体が必ずしも認定業者に駆除の依頼をするとも限らない。人間同士の妙な縄張り争いが展開されているのだ。

近年は有害駆除目的で狩猟業界に参入する人が増え、なかには若い女性の免許取得者もいることが話題にもなった。大学に「狩り部」が結成されるような動きもある。学生が狩猟免許(主に罠猟)を取得し、有害駆除を行うとともに、ジビエなど捕獲個体の商品化も手がけようという意図だ。彼らの活動が今後どのように展開されるかわからないが、猟友会や認定事業者とどのような関係を築くのか注意すべきである。

いずれにしても、有害駆除を担う組織の専門性を高めるべきだし、行政も野生動物に対する骨太の理念を定めなければ、問題は改善には向かわないだろう。

田中 淳夫 森林ジャーナリスト

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たなか あつお / Atsuo Tanaka

1959年大阪生まれ。奈良県在住。静岡大学農学部林学科卒。探検部の活動を通して野生動物に興味を抱く。同大学を卒業後、出版社、新聞社等を経てフリーの森林ジャーナリストになり、森と人の関係をテーマに執筆活動を続けている。著作は『イノシシと人間』(共著・古今書院)、『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人―野生との共生1000年の知恵』『樹木葬という選択』(築地書館)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)ほか多数。

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