ダイヤモンド社の本は、なぜ売れるのか? 特別対談 ベストセラーを生むための編集と営業(上)
営業マン、営業ウーマンの取り合い
佐々木:営業と編集の距離が近いのは、昔からですか。
井上:10年くらい前からですね。僕がこの会社に入った当初、営業にはすごく疎外感がありました。これから出る新刊本の注文を取ろうにも、タイトルと著者名しか情報がない。「俺はこれでどうやって書店さんを説得すればいいのか」と途方に暮れましたね。
でも実は営業マンが書店さんを説得する必要はなくて、新刊が出ると半ば自動的に販売会社から書店に配本されて店頭に並ぶようになっている。それでも3万部、5万部と売れるから、そのやり方でずっとやってきたわけです。それなら営業がちゃんと本の中身を知って書店さんに能動的な働きかけをすれば、もっと楽に売り上げが上がるはずだ、と単純に考えました。
佐々木:そこからコミュニケーションが密接になっていった。それは井上さんが仕掛けていったのですか。
井上:そうですね。当時の編集の幹部に「今のままでは営業マンがどんな本が出るかもわからない。自社の商品を知らずにセールスができるわけないですよね」と言って始めたのが、その週1回の会議です。
佐々木:営業の人が、いい意味で編集者化しているのが、快進撃の秘密でしょうか。
井上:もちろんコンテンツを見抜く目は編集者に及びませんが、営業のみんなには、「営業から本を作ったっていいんだよ。そういう気持ちで企画を眺めようよ」と言っています。営業は書店さんの店頭という最前線にいる。どんなものが売れているのか、何が旬なテーマなのか。営業はそれを日々目にしているのだから、「こういう本がダイヤモンドから出たら面白いよね」という意見が出ないほうがおかしい。
佐々木:編集の和田さんからすると、営業の人とはどういうふうに協力し合っていますか。
和田:率直に、「今、何の本が売れていますか」と聞くことは多いですね。他社の本についても、「どうしてあの本が売れているのかしら」と聞くと、現場目線の答えが返ってくるので非常に参考になります。
佐々木:それは内線電話やメールでですか。それとも会いに行って聞きますか。
和田:電話やメールなどはなるべく使わないよう、心掛けています。直接、営業のフロアに足を運んで、ちょっと立ち話をしたり、定例の会議が終わった後に、雑談がてら気になっていたことを聞いたり。営業と一緒にランチに行くこともあります。
用事がなくても必ず1日1回、営業のフロアに顔を出すと決めて、実行している編集者もいます。弊社は編集者の人数が多く、いわゆるセンター争いが激しいので、自分の担当した本をプッシュするために、つねに営業マン、営業ウーマンの取り合いです。
佐々木:AKBみたいですね(笑)。
井上:でも編集には言いたい放題、言わせてもらっていますよ。やっぱり企画書1枚を見ても、ちゃんと考えているものは、数行でもすごく刺さる。でもそうじゃないときは、「ほんとにこのテーマがいいと思ってるの?」「ほんとにこの著者にほれ込んで、出したいんですか?」と追及していくこともあります。
佐々木:井上さんが編集者にダメ出しするケースもあるということですね。それって、出版社では珍しいですよね。