ダイヤモンド社の本は、なぜ売れるのか? 特別対談 ベストセラーを生むための編集と営業(上)
『伝え方が9割』がバカ売れした理由
和田:井上に限らず営業はみんな、割と率直に意見を言いますね。カバーデザインについても「こうしたほうがいい」とか、「これは違うんじゃないか」とか。それは本作りに反映させることが多いです。
佐々木:編集と営業の意見がぶつかったときは、どうしますか。
井上:最終決定は編集者です。本って、実際に出てみないとわからないところがあるから、そこは営業の一方的な意見だけで決めては絶対にいけない。でも僕は逆にぶつかりたいと思っていますよ。ぶつかり合いになるということは、それだけ編集者、営業お互いの思いが強いということですから。
佐々木:今、編集と営業の方は、何人ずついますか。
和田:書籍編集局は総勢37人で、うち編集者は30人ですね。
井上:営業部全体としては25人いますが、書店さんを回っている営業は13人です。
佐々木:たとえば『伝え方が9割』(佐々木圭一著)という本は、営業視点から見ると、なぜ55万部も売れたと思いますか。
井上:自分自身、毎日の仕事の中で、伝え方は大事だと思っていましたから。たとえば営業と編集のやり取りでも、同じことを編集者に伝えているのに、編集者をすんなり納得させられる営業マンもいれば、伝え方を間違えたせいで険悪になってしまう場合もある。これは別に出版社だけの話じゃなくて、どんな仕事でもコミュニケーションって必須でしょう。それでゲラを読んでみたら30分で読み終わったので、これはベストセラーになると直感しました。
佐々木:30分というのが大事ですか?
井上:30分で読めるということは、普段本を読まない人にも読んでもらえるチャンスがあるということですから。
和田:井上をはじめ、うちの営業の人たちは本当によくゲラを読んでくれます。この業界でいちばんゲラを読んでいる営業部隊だと思います。もし弊社がうまくいっているとすれば、それは営業のみんながちゃんとゲラを読んで内容を把握してくれるからですよ。
井上:22万部を突破した『入社1年目の教科書』(岩瀬大輔著)は、タイトルについてやり取りがありましたね。営業からすれば、このタイトルは読者ターゲットを新入社員に限定しすぎるのではないかという心配がある。でも和田のほうから、あえて絞ったほうが広がるという意見がありました。
和田:ただ「ターゲットを絞りすぎ」という意見も一理あるので、帯で「後輩・部下指導にも役立つ」というような文言を入れて、メイン読者以外にも語りかけるようにしました。
井上:その狙いが当たって、上司や先輩社員からのプレゼントとして使ってもらったり、社内勉強会のテキストに使われたりしています。この本は2011年5月に出たもので、今年で発売3年目になりますが、この春、再び重点商品として力を入れたところ、今年の3月の売り上げ点数が過去最高記録を更新しました。