第6回 研究能力を使いこなす企業は強い?! 後編

企業人の素養としての研究能力

ここまでの議論から、企業が大学を上手に利用し自らの意志決定をより妥当性のあるものに高めるために、企業内研究者の存在が重要であることは認めるとして、企業内研究者が持つ研究能力、研究経験は大学との連携においてのみ重要なのでしょうか? 最終的な意思決定者はリーダーです。リーダーには研究能力は必要ないのでしょうか?

 ビジネスの研究の経験があり、研究手法を身に付けていることが実際の企業経営に役立つ可能性があることを示す事例を、スタンフォード大学教授のジェフェリー・フェファーとロバート・I・サットンが共著書の中で紹介しています(『事実に基づいた経営』清水勝彦訳、東洋経済新報社、2009年)。以下に引用しましょう。

 一九九八年、ゲーリー・ラブマンがハーバード・ビジネススクールの准教授を休職してハラーズ・エンターテイメントのCOOに就いたとき、彼はカジノのオペレーションのことも、内装のデザインや建築のこともほとんど知らなかった。ラブマンはハラーズのこと、そして小売業の研究をした。そして研究者らしく、分析と事実に基づいた意志決定を持ち込んだ。ラブマンは、これをハラーズの企業文化の一部にしたのである。彼は「ハラーズでクビになる理由には三つある。盗み、セクハラ、そして実験なしに新しいことをすることだ」と私たちに話してくれた。カジノでは売上、稼働率、収益性、従業員の離職率などあらゆるデータが取れる。ラブマンの決意とは、こうしたデータを使い、小規模の実験を繰り返してさらにデータを取り、収益を上げる方法を見つけようということだったのである。
(中略)
 ラブマンたちはサービスの効果に対する研究から、経験豊富で、熱心で、よく鍛えられた従業員は、顧客へのサービスが向上し、したがって顧客満足度アップさせ、最終的にはまた来ようという気にさせると結論づけた。こうした従業員への着目とデータの収集と分析による顧客行動の解明によって、ハラーズが得た利益は、その投資額をはるかにしのぐものとなった。

 書籍ではこの後にも、実測データの分析に裏付けられた経営改革によりラブマンがハラーズの収益を飛躍的に伸ばしたエピソードがいくつか紹介され、最後にそれらの功績によりCEO兼会長になったことが語られています。

 要するに、ハーバード・ビジネススクールの研究者であったラブマンは自分の会社を研究対象として、ビジネスの研究者として身に付けていた研究手法を用いて客観的なデータを収集・分析し、勤務先であるハラーズ・エンターテイメントの経営を改善し、ライバル他社に比べて高い収益性を実現したのです。

次ページ研究手法を現実の経営に活かす
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