第6回 研究能力を使いこなす企業は強い?! 後編

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企業と大学を繋ぐ人

しかしよく考えてみると、大学のビジネス研究者にとっては、対象企業に固有の事情・情報はさほど重要ではありません。

 彼らにとって重要なのは、より多くの企業、産業にとってそれを解決することが必要だろうと思われる未知の課題、特に社会の発展と共に現れ、今後さらに深刻化するであろうと予想されるような課題を見出すことです。

 つまり、大学のビジネス研究者が企業情報を欲しているといっても、それは各企業に特有のノウハウや秘伝のたれを教えてもらいたいと思っている、ということではありません。そうした生のノウハウや秘伝のたれ満載の情報をもらっても、そこから一般性のある学術的な課題を抽出する作業の方がむしろ大変です。大学の研究者が欲している企業情報と、企業が重要な企業秘密と考える情報は恐らく同じではないのです。

 そこで、もし、企業サイドに、生の情報からノウハウなどの企業個別の諸事情をより分け、一般的だが未知の問題を抽出して大学の研究者に伝えてくれる人がいるとしたら、どうでしょうか。とても便利だと思います。ノウハウなどの、企業が自社の利益の源泉と考える個別情報を外部に出すことなく、しかし企業内で労力をかけて研究し解決すべき課題に、大学の資源や労力を利用して取り組むことができるからです。

 この具体的な情報に関する扱いは理工系でも同じです。日本でも多くの企業が大学と共同研究を行っていますが、製品の設計そのものを委託したり、生産現場に大学の研究者を入れて製造方法上の問題解決を依頼したりすることはほとんどないでしょう。

 製品に組み入れることが可能な機構の開発や設計を共同で行ったり、あるいは製造方法上の問題に関わっていると思われる現象の解明を大学の実験装置で行ったりするのが一般的な姿だと思います。

 理工系の場合でも、製品に直結するノウハウや詳細情報を大学に出すことはまずありません。モーリーとティースが言うように、大学に開示されるのは、あくまでも研究対象となる基礎的で一般的な課題であり、それに関する情報です。ビジネスの研究も恐らく同じです。

 すなわち、企業が大学を上手に使うためには、利益に直結している個別固有情報と一般的な情報をより分け、一般的でかつ解決が望まれる未知の課題を抽出できる人が企業にいることが重要なのです。そしてその人たちは逆方向にも情報や知識を加工できるはずです。

 つまり、大学で得られた基礎的(=学術的)情報や知識に自社固有の事情やノウハウを結合して、企業の具体的な課題解決に適用可能な情報や知識にする情報や知識の実用化です。

次ページ求められるのは、課題解決能力ではなく、課題発見能力
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