「コロナ不況」過去のものと根本的に異なる理由 不況でむしろ購買力が増しているアメリカ人

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夫婦で住宅ローンを借りている銀行のウェルズ・ファーゴは、少なくとも年末までの返済猶予に応じた。その間も利息は積み上がっていくため、返済総額は増える。ただ、返済が猶予されたことで、自動車ローンやクレジットカードの支払いを続け、食料品やガソリンといった生活必需品を購入するのに必要な資金が足りなくなるような状況には、今のところ陥っていない。

「住宅ローンの返済猶予で、すべてが回るようになった」と、ブレナンさん。もちろん、猶予期間が終わるまでに次の仕事が見つからなかったらどうなるのか、という不安はある。

失業せず、勤務時間や賃金がカットされることもなかった人々では、今年の初めよりも経済状態が改善しているケースが少なくない。コロラド州デンバーで救急・内科医として働くダニエル・ゼコラさん(36)は、民間の学生ローン会社ローレルロードから返済が90日間猶予されたのをチャンスとみて、毎月の返済に充てていた5000ドルを貯蓄口座に移した。

この貯蓄口座で得られる利息は、学生ローンの支払い利息よりも高いため、月に90ドルの差額が手に入るという。ゼコラさんは住宅の購入に向けて頭金を貯めているところだ。「ちょっと後ろめたい感じはしますよね」とゼコラさん。「私は多くの人が苦しんでいるような悪影響には今のところさらされずにすんでいるから」。

積み上がる可処分所得

確かに、政府の支援策で高まった家計の流動性は減退し始めているし、消費も再び増加に向かっている。だが、それでも貸し手側は依然として消費者の支払い能力を楽観視している。個人の貯蓄率はこの春に急上昇し、4月に過去最高を記録した。アメリカ人の可処分所得の約3分の1にあたる6.4兆ドルが貯蓄として積み上がった格好だ。貯蓄率はその後、低下したが、政府の最新データによれば、それでも1年前よりもはるかに高い水準を維持している。

ロックダウンが消費活動の重石となったこともあって、クレジットカードの利用も急激に減った。クレジット利用残高は第2四半期に760億ドル縮小し、ニューヨーク連邦準備銀行の統計上、過去最大の落ち込みを記録。第2四半期の家計債務総額は2014年以来、初めて減少に転じたという。

実際、クレジットカードの発行会社など消費者向けに金融サービスを展開する会社では、貸し倒れが急増するような状況にはなっていない。それどころか、貸倒率は通常のレベルを下回るようになった。主に個人向けの現金給付や失業手当の上乗せのおかげだ。消費者向け金融サービス企業の多くは、最低でも来年後半までは、現在と似たような状態が続くとみている。

(執筆:Stacy Cowley記者)
(C)2020 The New York Times News Services

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