コロナ禍であなたは現代の模範囚になるべきか

行政のデジタル化で絶対に譲れない条件とは?

一方、個人のデータが集約されると、データの持ち主(当面行政だが、行政だけとは限らない)は、個々の国民の行動を把握し、監視することができるようになる。

個々の国民は、今自分が監視されているのかどうかを知り得ないが、いつも監視されているかのように振る舞わねばならない。

そして、「やっていいこと」「やってはいけないこと」の区別、あるいは「好評価されること」「評価が下がること」の区別について、監視者側の価値観を忖度して、推測された規律に進んで服従する適応が進むだろう。

グーグルやFBはデジタルの「パノプティコン」

まるで、デジタルの「パノプティコン」だ。パノプティコンとは、刑務所に使われることを想定した「一望監視型の施設」でジェレミー・ベンサムが考案したものとされるが、むしろミシェル・フーコー「監獄の誕生 監視と処罰」(田村俶訳、新潮社)が取りあげたことで有名だ。

中央に監視塔があり、これを取り囲むように独房が配置された円筒状の施設である。監視塔からは、それぞれの独房をいつでも容易に監視できる。他方、監視される側の囚人から監視塔の中の様子を伺うことはできない構造だ。囚人は、自分がいつ見られているかわからない状況の下で規律に服することを訓練されて、社会復帰することが期待された。

今なら、このような建築効率の悪そうな施設を作らずとも、監視カメラを配置するともっと効率のいい監獄ができるだろう。そして、相手が囚人ではなく、普通の人ならスマートフォンを持たせて街頭の監視カメラでモニタリングすれば、オープンエアな身体拘束なしのパノプティコンを作れる。

知らないうちに見られているかもしれない感じはどういうものだろうか。あなたは囚人ではないし、行動のごく一部を見られているに過ぎないのだが、検索行動がグーグルに見られていて、まるで自分の関心事に対する警告のように広告が出てくる不気味さに近い。商業的かつごく部分的なものだが、グーグルやフェイスブックは、デジタルなパノプティコンでもある。これが、全プライバシーに向かって拡大すると、どんな感じか。

この立場に政府が座って、各種の行政や金融、医療などに関わる個人情報を収集・閲覧し、働きかけ(直ちに「監視」とまでは言うまい)ができるようになるとすると何が起こるか。強力なパノプティコンの誕生だ。

しかし、見られるのが不気味だからといって、人はこのデジタルな新型パノプティコンに収監されることを拒むとは限らない。外敵やコロナのような困難が現れた場合、「パノプティコンの中の方が安心だ」という心理が案外容易に働くだろう。仲間の外にいることは、不便だし、不安だ。

そして、旧来の独房の集合と異なり、囚人同士のコミュニケーションが可能な新型パノプティコンにあっては、囚人同士がお互いの規律への服従を監視し合い、看守たる政府ばかりでなく、仲間内の評価を得ようとする行動も発生する。少なからぬ数の人が、「パノプティコンの模範囚」を目指すだろう。そして、日本国民は、現在のコロナ禍で、模範囚になる訓練を受けている。

次ページパノプティコンの「真ん中」を照らせ
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