将来は「アジアの富裕層が集まる温泉地」を狙う。そのため国内外の観光客に、豊岡演劇祭で上質のエンターテインメントを提供するとともに、周囲に点在する高原や海岸、奇岩などの観光地にも足を運んでもらおうとの思惑がある。これらの拠点を結ぶために観光型MaaS(統合型移動サービス)の導入を検討、演劇祭ではトヨタ・モビリティとKDDIが参加して来訪者の移動動態に関する調査を行った。
とはいえ、大学が全国区的な存在になれば卒業生は地元に残らず、東京などほかの地域に就職してしまう懸念がある。そもそも、城崎温泉の旅館は家族経営が多く、就職先として受け入れられる余力がないとの指摘もある。
だが大学側は鷹揚だ。豊岡市の中貝宗治市長は市議会で「仮に卒業生が但馬に残らなかったとしても、毎年80人の卒業生が全国や世界へ旅立っていく。専門職大学は人材供給基地としての豊岡のブランドアップに大きく貢献する」と、人材輩出を通して地域のブランド価値に貢献できると説明している。
秋田の国際教養大を徹底研究
これには秋田県の公立大学である国際教養大学の先例がある。英語での授業や留学を課す国際系大学の先駆けで、創設15年あまりで高い評価が確立している。ただ卒業生の多くは地元には残らず東京の一流企業へ就職するか海外の大学院へ留学してしまう。「公立大学として地域に貢献していない」との批判がある一方で「国際教養大が秋田を有名にした」との評価もある。平田氏は開学準備に当たり国際教養大を徹底研究、既存の公立大学とは一線を画す独立運営を志向する。
芸術文化観光専門職大学が世界を目指すことに地域に戸惑いはないか。県参事の川目氏は「但馬地域が将来どうあるべきかのビジョンを、いま一度、自治体と大学で検討していく必要がある。あまりとんがりすぎても浮いてしまう。豊岡演劇祭と城崎温泉が地域活性化のエンジンであることは間違いないが、住民と一緒に地域を底上げできるかどうかが課題」という。
リクルート進学総研の小林浩所長は「『観光と芸術』という、専門職大学としてのブランドを確立し、地域と一体化して、継続的に産業クラスターを形成していけるかどうか。1期生が卒業後、どれだけ個性を発揮できるかが1つの目安となる」と分析する。
コロナ禍で「二の次」とされた観光と芸術が再びその魅力を再生し、将来を担う人材を育てていけるかどうかが大学の使命でもある。市原氏は「コロナ禍で『芸術は社会に必要ではない』とみている人たちの視線を感じた。演劇祭と大学で、芸術を勉強し、その力を理解し、必要であると言ってくれる人が増えることを期待している」と述べた。
まずは、地域貢献など「芸術と観光を学ぶ大学」以上の存在感を示せるかがカギとなるだろう。
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