演劇+観光の人材育成「オリザ大学」成功するか

城崎温泉の地に地域の核担う公立専門職大開校

演劇の世界で、プロの俳優として生活できる人材は極めて少ない。いっぽうで観光業界は、コロナが終息すれば従来の慢性的な人手不足が再びクローズアップされる可能性が高く、さらにマネジメントができる人材が少ないというのもある。オリザ氏を追って入学した俳優志望の学生たちが、観光の魅力に目覚めて、その方面に進むことも想定している。

城崎国際アートセンター(写真)などで開催された「豊岡演劇祭」。2020年は海外勢が来日できなかったが、青年団のほか、新進気鋭の劇作家、岩井秀人氏や藤田貴大氏らが出演、来場者5000人の半数以上が県外客だった (筆者撮影)

兵庫県はもともと、県立の芸術文化センター(西宮市)やピッコロシアター(尼崎市)などを擁する演劇が盛んな土地でもある。さらに豊岡市にはオリザ氏も立ち上げに参画して2014年にオープンした城崎国際アートセンターがある。

城崎温泉に近い場所にある県のコンベンションセンターを改装した施設で、最長3カ月、無償で滞在できる間に舞台作品を練りあげ、現地で上演するアーティスト・イン・レジデンスの拠点となっている。

たまたま講演で現地を訪れたオリザ氏に豊岡市が施設の使い道を相談したのがきっかけで、国内外から応募が殺到する人気施設となった。カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した仏女優、イレーヌ・ジャコブ氏も滞在している。

今年、若手劇作家の登竜門である岸田國士戯曲賞を劇作家の市原佐都子氏が受賞したが、その受賞作「バッコスの信女-ホルスタインの雌」はここで滞在しながら制作されたものだ。市原氏は「東京と違う穏やかな雰囲気の中で執筆に集中できた。演劇を見慣れていない方々に作品を見ていただけるのが新鮮だった」と話す。

地域と大学とで目指す「小さな世界都市」

演劇祭に参加した劇団「マームとジプシー」の主宰・藤田貴大氏も地方で演劇を学べる場所があることを評価する。藤田氏はオリザ氏の指導を求めて北海道から上京し、演劇専攻のある私立大学に入学したが、「かつて僕には『東京のように舞台を見られない』というコンプレックスがあった。地方でさまざまな演劇が見られる機会は貴重だし、海外では僕らのような若手の世代が普通に演劇祭を運営している。豊岡でオリザさんが世界をどう位置づけてくれるかに興味がある」と話す。

岸田國士戯曲賞を受賞した市原佐都子氏の「バッコスの信女-ホルスタインの雌」は、城崎国際アートセンターに滞在して制作された作品だ © igaki photo studio

大学のもう1つの特徴は、地域と一体となって街づくりを進め、人材を輩出しようという点にもある。「欧州の主要都市では、観光と芸術が盛んになり、地元の大学が人材を供給する流れが自然とできる。しかし、豊岡は順序が逆で、大学から地域に人材を供給することで街の活性化を図りたい」と川目氏は意気込む。

豊岡市は「小さな世界都市」を標榜し、ローカルならではの特徴を生かしながら世界の中で存在感を出すことを目指す。城崎温泉はコロナの感染が広がる前はインバウンド(外国人旅行客)の宿泊客数が急増していた。その数は2019年には東日本大震災前の2010年から約30倍に拡大。色浴衣を着ての外湯めぐりや、万城目学や湊かなえといった若手作家に城崎に関する執筆を依頼するなど、日本の伝統文化を新しい形で発信したことが功を奏した。

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