専門職大学は実習や実験を重視した、即戦力となる人材を育成しようと、2019年、文部科学省が短期大学の設置以来55年ぶりに導入した新しい形の大学だ。理論だけでなく4年間で全体の3分の1に相当する600時間の実習が求められており、大学と専門学校の良いところを採り入れた大学といえる。
すでに2020年度までに医療やファッション、情報経営など、短期大学も含めて11の大学が開学、2021年も芸術文化観光専門職大学を含めて4校が開校予定だ。
芸術文化観光専門職大学は、芸術文化・観光学部/芸術文化・観光学科のみの単科大学で、「演劇・ダンスの実技が本格的に学べる公立大学」として注目されている。「演劇の手法を取り入れたコミュニケーション力の育成」をベースに、芸術と観光のマネジメントについても学ぶ。
想定する実習先は、城崎温泉の旅館をはじめ運輸・観光業、自治体、地域の民間企業、劇場から海外の観光・文化施設まで多岐にわたる。現時点の教員候補者には平田氏のほか、世界的なバレエダンサーの木田真理子氏らが名を連ねている。キャンパスはJR豊岡駅から徒歩7分にある商業施設跡地に建設。1年次は全員、敷地内にある学生寮に入寮を義務づけている。
偏差値55~60前後の層をターゲット
平田オリザ氏も家族とともに豊岡市に移住し、青年団の本拠地も旧商工会館を改築して新たにオープンした江原河畔劇場に移転させるほど力を入れている。
芸術と観光は接点がないように見えるが、「人をもてなすというホスピタリティーは共通しており、コロナ禍の後で打撃を受けたという点でも同じ。だからこそ、この大学には価値がある」とオリザ氏は強調する。
想定している志願者層は「演劇専攻のある東京の明治大学や早稲田大学に行きたい、関西以西の偏差値55~60前後の層」(オリザ氏)という。大学での演技指導については、東京では日本大学芸術学部などが本格的に行っているが、兵庫県但馬地域で、オリザ氏らの指導が受けられ、かつ公立大の学費で学べるとあって人気となっている。オープン・キャンパスに参加した高校生たちの志望は「芸術と観光で7対3」で、演劇を学びたい生徒が多数となっている。
ただ生徒たちはオープン・キャンパスの参加後、芸術と観光の「相乗効果」に気づいたようだという。
「芸術志向の生徒が観光の模擬授業を受けて、地域を元気にするホスピタリティーとは何かに気づく。いっぽう観光に関心のある生徒が、演劇によるコミュニケーションの大切さに気がついた」と、教育界から大学担当の兵庫県参事に転じた川目俊哉氏は言う。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら