「ヴィレヴァン」を映画の題材に選んだ深い理由 監督と脚本家が語る「企業もの作品」の可能性

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いながき:確かに。そういうリテラシーは高いですよね(笑)。

後藤監督:「話せばわかる」の代表ですよね。「その辺は僕ら、全部理解してますから」という感じがあって、さらに責任者は上を通さずに「大丈夫です。なんとかします」と言ってくれる。

いながききよたか/1977年生まれ。愛知県出身。2002年より現場制作部を経て、2007年『オリヲン座からの招待状』の脚本家として劇場映画デビュー。webマガジン「コギトの本棚」にて短編小説、コラムなどを執筆中。主な作品に映画『ソレダケ / that’s it』、huluオリジナル「代償」、「ネオ・ウルトラQ」など (筆者撮影)

――それは心強いですね。

後藤監督:余談ですが、今回はイオンモールを舞台にしているのですが、イオンモールさんはヴィレッジさんのいわば「対極」にあるしっかりとした企業だと思うんです。ただヴィレッジさんからうまく交渉していただいた結果、イオンモールさんにも話せばわかってもらえたんですよね。

企業を題材にした作品って壁があると思うんですが、ちゃんと話ができれば、そういう企業もののタブーみたいなところも意外と大丈夫なんじゃないかなという気がしています。その第一歩がヴィレッジヴァンガードになるのではないでしょうか。「作品は作品だからいいっすよ」という姿勢は、すごくやりやすかったですね。

企業もの映画の第一歩になる

――ドラマには、バイトの方が社員よりも裁量権があるというか、ヒエラルキーが上という描き方がされていましたが。

いながき:バイトをすごく大事にするというか、長くやっていれば長くやってるほど裁量権がある。むしろ社員になればなるほど、価値観が硬直しがちになる。

面白いことを考えているのはやっぱりプレーヤーだから、プレーヤーに対して裁量を与えるんですよね。はじめに現社長に会ったとき、「うちはバイトに決済、仕入れとかも全部任せるんだ」と言っていましたからね。

例えばBeatsのヘッドホンがまだ全然入っていなかった時に、入りたての若い女の子がバッと仕入れたらめちゃくちゃ売れたことがあった。それは絶対、社員ではできないことで、バイトがいかに大事かということを切実に語るんです。

――企業のあり方としてもポジティブですよね。

後藤監督:日本の会社は、若い人に任せないことが多いじゃないですか。偉い人が「俺がやる」と言う。日本はそこの硬直感が本当に強い気がするんで、ヴィレッジヴァンガードは、そのあたりの循環がうまくいっている感じがしますよね。

いながき:ヴィレッジヴァンガードって風通しが良いんですよね。

後藤監督:本人たちには何の自覚もないみたいですけどね(笑)。でも僕は話を聞いたときからそれを感じていました。愛すべきこの人たちが、単に好きでやってるという。それが、何か今の暗闇の中でのかすかな光に感じた気がしたんです。ただしこれだけヴィレヴァンのことを描いているのに「うちはお金の支援はほとんどできませんよ」とはキッパリ言われましたけどね(笑)。

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