いながき:僕が働いていたのは20年以上前で、当時はまだ名古屋に5店舗ぐらいしかなかった時代。そんな時に、当時の社長(菊地敬一会長)が突然、「100店舗にするぞ、上場するぞ」といった感じでぶち上げたんですよ。町の本屋が上場するぞと言い出して。ドラマの内容を見ていただければわかると思いますが、当時のほうがより社会に適合できない人たちが寄り集まってくる場所だったんです。
だから「そんな店が全国展開するなんて大丈夫?」みたいな感じで見ていたのですが、有言実行でまず下北沢に作り、あれよあれよという間に100店舗つくってしまった。その時期には僕も辞めていたので大きな企業に成長していく過程はわかりません。でも創業時のヴィレッジヴァンガードの雰囲気は見ていました。
ヴィレバンはユートピア、だから「卒業する」
――ドラマに登場する店員さんたちもだいぶ個性的でしたが、そうした人たちにも門戸を開いているというのはある意味、社会貢献ですよね。
いながき:それは本当にあると思っていました。
後藤監督:どれくらい意識的なのかわからないですが、そういう人たちでないとそうした店は作れないでしょう。「苦労するかもしれないけれど個性的な人たちと一緒にやっていくべき」という思いがありますよね。
いながき:取材していく中で「ヴィレヴァンは卒業するもの」みたいなことを言ってる人がいて確かにそうだなと思いました。当事者だとわからないが、外れてみるとものすごいユートピアに思える。いつまでこのままでいられるんだろうな、というのをみんな思っているような気がします。
後藤監督:僕もそれを感じていて、元ヴィレヴァンスタッフだった方の著書を読んだりするとビンビンにそうしたことが伝わってくる。「ヴィレヴァンが好きで好きで仕方がないから辞めた」って言っているんですよ。まさに恋愛と一緒だなと思って。モラトリアムというか、青春のある一時期の輝きといったものがありますよね。
――でもそれがちゃんと上場した企業として成り立っているのが不思議ですね。
後藤監督:成り立っているんですかね(笑)。本当はビジネスの側面から話ができたらと思っているんですけど、調べれば調べるほどここは企業体として成りたっているのか? という疑問が湧いてくる。たまたま何とか成り立っているだけなんじゃないかといまだに疑ってますけどね(笑)。
いながき:僕はヴィレッジヴァンガードが変貌する瞬間を見ていましたが、その精神は今でも変わらない。営利活動はしないといけないんだけど、好きなものを売りたい。ある意味逆説的ですが、それをどうにか同居させようという歴史だったような気がします。
後藤監督:それは当時からそうなんですか?
いながき:100店舗に増やすと宣言した店長会議の場にいたのですが、そのとき大激論になったんです。「店舗を広げると社長は言ってるけど、どうする?」「俺たち、わかる人に何かわかるものを売っていただけなのに、それってポピュラーになるの」って。
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