もっともブレグジットの場合、事前の世論調査では、ほとんどの調査で五分五分だった。それにもかかわらず、金融市場は「ブレグジットなどありえない」という予想で、完全に国民投票の結果は「紆余曲折があるも、否決になる」と勝手に決めてかかっていた。
これも前述の確証バイアスであるが、仕方がない面もあった。サプライズとなった理由は主に2つだ。
第1に、そもそもブレグジットなどという誰にとっても得にならないうえに、イギリスの運命としては壊滅的な結果、歴史が終わってしまいかねないような選択肢を、あえて国民が結果として選ぶというのは、どう考えても合理的でない。「あまりに不合理だ」というのが、現実を直視できなかったもっとも大きな原因であろう。
第2の理由は、国民投票というのは、ほぼ初めての出来事だったからだ。国民投票はめったに行われないし、行われたとしても毎回議決すべき事項は異なる。したがって、客観的な予測をしようにも、データどころか、1度の前例もない。確率分布が描けないという意味で、リスクではなく、ナイトの不確実性に近いイベントだったと捉えられる。歴史的に一度きりの事件であるから、客観的な予測をしようにもどうしていいかわからない、ということだ。
ブレグジット後にトランプ当選のサプライズがあった
この結果、ブレグジットはあまりに衝撃的な結果をもたらした。この衝撃が大きすぎて、人々、とりわけ市場と専門家たちの間には強いトラウマとして「世論調査などの予測は当てにならない」という印象が深く刻みこまれたのである。
そして、トランプ氏が大統領に当選するという、この年2度目のサプライズが、その4カ月後に起きた。
こちらも、ブレグジット以上のサプライズだったことは、4年前になるが誰もが覚えていることだろう。理由はブレグジットと同様だ。
トランプ氏はこれまでも大統領選挙に出馬しようとしていて、ほぼ泡沫候補扱いだったのが、共和党にほかにはろくな候補がいなかったので、あれよあれよという間に共和党の候補になってしまった。共和党内部からも強い反対が残り、一枚岩でないどころか誰もワシントンでは支持しないという有様だった。結果からすると、それが逆に効果的で、ワシントンの外にいて「これまでのエリートたちとは違う」、という保守的な低所得層の支持を受けて当選してしまった。
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