「僕としては、真剣交際に入っているのだし、結婚に向けての具体的な話を進めたいんです。でも、彼女はのらりくらりで、ちっとも前に進まない。あちらのご両親にもお会いして、正式ではないけれど、こちらの結婚の意向も伝えている。このままだとらちが明かないので、婚約指輪を買って、サプライズで渡そうかと思います。そうしたら、彼女も気持ちを決める気がするんですよ」
結婚の意思表明をしないのは、由紀子が迷っているからだろう。そんなときに目の前に婚約指輪を出されたら、余計に戸惑ってしまう。そう思った私は、こうアドバイスした。
「今婚約指輪を渡すのは、時期尚早だと思いますよ。それに多くの女性が、『婚約指輪は男性が内緒で選んだものではなく、一緒に買いに行って自分でデザインを吟味したい』と思っているの。彼女の気持ちが結婚に向かうようになるまで、もう少し待ちましょうよ」
ところが、その2週間後、彼は都内のジュエリーショップで、ダイヤの婚約指輪を買ってしまった。そして、週末のドライブデートの別れ際、彼女の家の前で車から降りようとしている彼女に、小さな箱を差し出した。
「婚約指輪だよ」
「えっ?」
一瞬戸惑ったものの、彼女はその箱を受け取り、車から降りて家の中に入っていった。
サプライズの婚約指輪に「お金を返せ」はおかしい?
ところが、それから1週間後、彼女の相談室から、「交際終了」の連絡が来た。私が、それを告げると、義雄は憤慨した口調でいった。
「指輪を受け取っておいて、交際終了? なんですか、それ」
実は指輪を渡したのを私が知ったのは、そのときだった。
「えっ? 指輪を渡していたの? まだ渡すのは早いって、この間私言いましたよね」
「はい。でも、指輪の話は2人の間でしていたし、どんなプロポーズのされ方がいいという話もしていたんです。第一彼女は受け取ったんだし、結婚が嫌だったら、受け取らなければよかったじゃないですか。今さら“結婚がなし”だなんて、“指輪のお金を返せ”って言いたいですよ」
彼の怒りもわかったのだが、この話はどう考えても彼のフライングだ。
「指輪は、サプライズでプレゼントしたんですよね。だとしたら、『お金を返せ』と言うのは、おかしいのではない?」
私と義雄の間では、こんなやりとりがあったのだが、後日、由紀子の相談室から連絡が入った。
「このたびは、ご迷惑をおかけしました。『いただいた指輪の代金は、現金でお返ししたい』と申しておりますので、指輪の金額と振込先を教えてください」
そして、そこから3日後、義雄の口座に婚約指輪の代金が振り込まれた。
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