世界遺産の観光に「高速バス」が便利な理由 全国に広がる乗り換えなしの「直行便」路線網

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名古屋と白川郷の中心となる荻町は、実は世界遺産の登録前からバスで結ばれていた。1966年に開業した、当時の国鉄バスと名鉄バスの名金急行線である。主に国道156号線沿いの集落ごとに停車していた長距離路線バスで、このバスの車掌が御母衣(みぼろ)ダム建設で沈む桜の木を沿線に移植、その沿道が「さくら道」と呼ばれるようになったエピソードでも知られた路線である。

白川郷のバス停(筆者撮影)

現在、荻町の集落の入口に造られた白川郷バスターミナルには、名古屋への高速バスのほか、金沢への高速バス、高山までの路線バス、富山側の五箇山から高岡までを結ぶ加越能バスの「世界遺産バス」など、各地へのバス路線網が充実し、インバウンドで観光客が殺到していた白川郷の公共交通の重責を担っている。

ほかにも世界遺産観光に便利なバスが目白押し

こうした路線のほか、2013年に世界遺産となった富士山へは、吉田口の五合目まで登山シーズンにバスタ新宿から中央道、富士スバルライン経由での高速バスが運行されているし(今年は登山の全面的な禁止で休止)、岩手県の平泉へは仙台駅前から一ノ関駅までの東日本急行バスが路線を延伸する形で、中尊寺の前まで一日数往復の運行を行っている。

中尊寺は東日本随一の平安仏教美術の宝庫としても知られる(ジャバ/PIXTA)

中尊寺へ鉄道を使う場合は、東北新幹線の停車駅である一ノ関駅から在来線に乗り換え平泉駅で降りたのち、さらにバスを乗り継ぐ必要があり、仙台からの直行バスは有効な移動手段となる。

さらに、冒頭で触れたように、知床への足として東京や名古屋からの玄関となる女満別空港から直行バスが運行されているのは、観光客にとってはありがたい路線であろう。この直行バスがないと、空港から網走駅まで行き、JR釧網線で知床斜里駅まで行って斜里バスの路線バスに乗り換えるという手間がかかる。

この「知床エアポートライナー」は、沿線に高速道路がないため一般道の走行だが、知床には札幌から高速バスが1往復乗り入れている。道央道と旭川紋別道を経由する斜里バスによる「イーグルライナー」である。

こちらは、小清水、斜里両町の住民も利用する都市間バスの性格も帯びているが、ウトロでは主要なホテルに巡回して停車するなど、観光客の利便性を図っている。

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札幌発の便は夜行で朝知床に着き、帰路はそのまま昼行便として折り返す変則的な運行だが、朝早く知床に着いて丸1日観光できるという点では、観光客には便利な路線だ。

高速道路網の充実と観光地としての世界遺産の認知、インバウンドの増加などで路線網を拡大した「世界遺産高速バス」。しばらくインバウンドは期待できないが、日本人観光客にも便利な路線として、今後の世界遺産登録地の拡大とともに、さらに増加する可能性がありそうだ。

佐滝 剛弘 城西国際大学教授

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さたき よしひろ / Yoshihiro Sataki

1960年愛知県生まれ。東京大学教養学部教養学科(人文地理)卒業。NHK勤務を経て、高崎経済大学特任教授、京都光華女子大学教授を歴任し、現職。『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『郵便局を訪ねて1万局』(光文社新書)、『日本のシルクロード――富岡製糸場と絹産業遺産群』(中公新書ラクレ)など。2019年7月に『観光公害』(祥伝社新書)を上梓。

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