角川春樹が激白「今の映画は冒険をしていない」 最後の監督作「みをつくし料理帖」にかける思い

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――角川監督というとメディアミックスの戦略で一世を風靡しました。今のネット時代においてはどのような戦略を考えておられるのでしょうか。

この映画はターゲットを30代、40代の女性を中心に設定しました。もちろん出演している松本穂香や奈緒は20代前半ですから、彼女たちの世代にも観てほしいというのはあります。

年齢によって宣伝方法は違っていて、10代、20代はSNSが軸になっている。一方、30代、40代になると、今度はテレビが軸になる。その上の50代、60代の宣伝の中心は活字になる。

作品を海外にも出していきたい

今回は角川映画のファンも動員したいということになると、わたしが出ているのはほとんどが活字ですね。新聞広告を含めて雑誌媒体などからのインタビュー依頼も多いですね。インタビュアーはほとんどが角川映画世代なんですね。だからしゃべりやすい(笑)。

料理の描写も注目のひとつだ Ⓒ2020映画「みをつくし料理帖」製作委員会

――若者に向けてはいかがでしょうか。

私ははじめから、絶対に若者向けにしようとは思っていなかった。今言ったようにターゲットは30代、40代の女性ですから。

もし若者向けに作ろうとするならば、むしろ私は『みをつくし料理帖』をアニメーションにしたほうがいいんじゃないかと思っていますね。当然、アニメ化というのも想定に入ってきますよね。これをやるなら10代、20代狙いになるでしょう。

でも今回の映画に関してはそうは思っていない。SNSはかなり使っていますが、そこに特化してるわけではない。やっぱり30代、40代の女性を考えると、テレビが一番訴求力が高いと思っています。だからこそローカルのテレビ局にも製作委員会に参加してもらっているわけですよ。大阪の読売テレビ、KBC九州朝日放送、それから広島のRCC中国放送とかね。

――キー局ではなく、ローカル局ということですか。

そうです。キー局に参加してもらうと、ほかのテレビ局のバックアップがなく、逆にターゲットを絞ってしまうことになる。今回は新しい事をやるというよりもむしろオーソドックスに、10年後も20年後も古くならないような映画を作りたいというのがあったんです。

それからもう一つ、食というのは世界共通ですよね。特に日本食は。だからこの作品を日本だけではなく、海外にも出したいと思っているんです。だから時代考証から料理まで、料理の例えば包丁ひとつとってもこだわっています。澪は包丁を4本使っているんですが、実は全部、江戸時代の堺の包丁なんです。そういう、一見、よくわからない細かいところまでこだわっている。

――食は世界共通ですからね。

この間も上海国際映画祭で上映されましたし、韓国や台湾、中国からも上映オファーがありました。これを広げていけば全世界のマーケットをとれるんじゃないかなと。それが狙いで作っているところもあって。意図的に「富士山」や「桜」を登場させていますからね。それから「芸者」も(笑)。とにかくこの日本文化を、世界に伝えたいと思っているんです。

(一部敬称略)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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