――これが角川監督、最後の監督作とありますが、まだまだできるんじゃないですか。
同じことをテリー伊藤さんにも言われました。彼は、過去の角川映画の中でもナンバーワンだと言ってくれた。実際、今回は多くの方から10年に一度の名作だと言われたんですよ。
一方で戸惑いも感じています。私としてはこの映画を自分の代表作にしたいと思っていたけど、角川映画ナンバーワンになる映画を作ろうとは思っていなかったし、これまで映画は今作を含めて73本やっていますから、『蒲田行進曲』や『時をかける少女』などそれぞれが好きな作品というのはあるわけですよね。そこと張り合おうという気はなかったです。
――しかし結果として、出来上がった作品は手応えがあるものだったと。
よく「スタッフ・キャスト一丸となって映画を作りました」というのがあるじゃないですか。あれはうそなんです。そんなことはない。でも今回、今まで73本やってきた中で、ほぼそれに近い形になったなと思います。
スタッフ、キャストが120%の力を出した
キャストもそうなんですけど、特にスタッフに関しては持っている能力を100とすると、120パーセントを出してきた。わたしは撮っている側ですから、今回のこのスタッフの能力がいかにすさまじいものなのか分かるわけです。
キャストについてもそうで松本穂香、奈緒もそうですが、石坂(浩二)さんにしても(浅野)温子にしても、若村麻由美にしても、持っている以上の力が、私は120パーセントだと思っていますが、そういう力が出てきたなと。
もちろん、本読みに参加できなかった中村獅童。そして窪塚洋介も、彼は本読みの時に結構駄目出しをしてしまいましたが、実際にクランクインしたらほぼ全員がNGなしだったんですよ。だから監督とは何だろうと思ったんですが、でもきっと監督というのは、スタッフやキャストの能力以上のものを引き出すのが仕事なんじゃないかと感じています。
――まさに角川監督の存在も大きかったのではないでしょうか。
スタッフはカメラも美術も照明も初めて一緒にやる人が多かったですね。特にスタッフは、角川春樹最後の監督作品にぜひ参加したいと言って、手を挙げて参加した人ばかりだった。だから余計に力を発揮してくれたのかもしれません。この熱意がどんどん伝わってくるんですよ。
――それがパワーになったのでは?
なりましたね。特に舞台をやっている俳優たち、石坂さんにしても、浅野温子にしても、若村にしても、藤井隆にしてもそうでしたが、芝居をやっている人は、バックでもきちんと動いているんです。舞台は映画みたいにそこだけ切り取るわけではないからみんな動いてる。そういう演技ができるということは大きいですね。
新人2人のバックで、みんながきちんと動いてくれている。彼らは映っているかどうかも分かっていないんですよ。もちろんカメラには映るんですが、映るための演技をやるのではなくて自然に動いてくれていて。それは映画の奥行きになりましたね。だから今までで一番楽しかった現場だった。73本の映画の打ち上げ写真があるんですが、社長室に飾ってあるのは今回だけですね。それぐらい今回の現場は楽しかった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら