「アリ型」日本人は、変化に対応できない アリの「閉じた系」からキリギリスの「開いた系」へ

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巣があるからアリは「内向き」になる

アリの「閉じた系」の思考の特徴として、「線を引く」ことに加えて「内と外がある」ことがある。要は自分のいる側といない側を明確に区別するということだ。巣があるために、アリは内側を守ることにエネルギーを費やすことになる。

前回述べたストック型の「持つ者の発想」と併せて、アリはつねに組織の論理で動く。要は線を引いた「向こう側」と「こちら側」とを比較すると、つねに「こちら側」を中心に物事を考え、「向こう側」は否定し、排除し、規制するという思考回路になるのである。

これに対してキリギリスには「巣」がないから、そこに何らかの予断を持って物事を見ることをしない。「どちらに肩入れする、しない」という問題ではなく、まずは中立的な観察から始まるのがキリギリスのスタンスである。

アリとキリギリスの行動パターンの違い

思考回路はすべての行動に影響を与える。「閉じた系」で考えるアリと「開いた系」で考えるキリギリスとの間に、どういう行動パターンの違いがあるだろうか?

まず、良くも悪くも「枠が与えられなければ動かない」のがアリである。ひとたび問題が与えられれば、それを全力で解決にかかるのがアリであり、その問題としての「与条件」をつねに「ありき」と考えて、これをいっさい疑わない。それが問題解決型のアリの行動パターンの特徴である。与えられた問題をいちいち疑うことは、問題を解決することを遅らせる。だから、アリはとにかく置かれた環境でベストを尽くすことに集中するのである。

これに対してキリギリスは、枠(巣)があろうがなかろうが気にせずに動き回る。与えられた環境でうまくいかないと考えれば、「環境そのものを変えてしまおう」と考えるのがキリギリスである。だから、今、自分がいる業界や会社がおかしいと思えば、すぐにそこから出ることを考えて別の業界や会社を探し始める。アリにとってキリギリスが「我慢ならない存在」と映るのはそういう理由による。

アリは「枠そのものを変えられる」ことを好まない。せっかく解きかけた問題に対して努力してきたことが、すべてその時点で無駄になるからである。

また良くも悪くも「満点(目標とするレベル)」が決まっているので、そこに向けて「何が足りないか?」を考えるのがアリの発想である。コップに水が8割入っているときに、「満杯までにはあと2割足りない」と考えて、その2割を満たそうというのがアリのDNAである。そうすると必然的に「今あるものにケチをつける」のが得意となる。80点を100点にするときに必要となるのが、こういう行動パターンである。仕事で言えば、他人が作ったたたき台にコメントすることを繰り返すようなことになりがちである。

これに対してキリギリスは、「コップの上面」はあくまでも仮のものと考えているから、コップを満たすだけでは満足しない。つねに視線は「コップの外側」を向いているから、「別のバケツを用意すれば水はいくらでも入る」と考えるのである。

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