「エルメスとパタゴニア」に共通する圧倒的凄み 欧米の企業は本気でSDGsに取り組み始めている

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いいサービスには違いない。けど、ではヤマト運輸がどういう地域社会をつくりたいかビジョンは見えてきません。実現したい未来像を起点に、自社のノウハウで何ができるか、そこに到達するための商品開発をしているか。SDGsの視点から言えば、見守りサービスがなくていい社会とは? お年寄りが自立して人生の終盤を充実して暮らせる社会にするためどう貢献するか? それを考えるのがアウトサイド・インです。そこにこそ新たな市場が生まれます。

今までのやり方では市場は受け入れない

──田瀬さんは公的機関ご出身ですが、数字命の企業人にもちゃんと理念は届いてると感じますか?

僕は基本、経営者と話をすることにしています。SDGsはトップが自分の言葉で自分のものとして語れるレベルまで腹落ちしていないと、社員には浸透しません。

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先日、「そうは言ってもね、地球とか人権とかって遠いんだよ」とおっしゃる役員がいた。でも一見無関係そうな、例えば資産運用でさえ、現実には環境に直接影響を及ぼすような決定が日々なされている現実がある。「考えを巡らすことなく“遠い”と言うのは、単なる想像力の欠如です」と僕は言いました。社長はニヤニヤしてましたよ。そうやって社内の意識を変えていこうということでしょう。

日々数字に追われる執行役員や事業部長と1対1で話すと、「会社が本当にやりたいことって、ちょっと違うと思うんですよね」とつぶやかれたりする。皆さん、自分がやってる商売は社会とつながってるという感覚があります。それを引き出すのが僕の仕事。今までのやり方では市場は受け入れないよ、間違いなく負けますよと。

──米国の「We Are Still In」のエピソードが象徴的ですね。

2017年、トランプ大統領が気候変動への国際的枠組みである「パリ協定」離脱を表明すると、4日後に1200以上の企業や自治体が結集し「われわれは(パリ協定に)残る」と反旗を翻しました。現在4000近い組織が署名しています。引っ張ったのはウォールストリートであり投資家。気候変動に対する道義的責任を超えて、すでに自社の競争戦略の一環として取り組んでいるから。背景には市民社会の要請、取り組みを評価する投資家がいる。

SDGsを浸透させ人々の消費行動を変えていくには、一定の時間をかけた戦略が必要です。そこで重要なのが教育で、それがメディアの役割なはず。会社の施策を単発記事で流すのではなく、長期的視野に立って、「生きていくうえで世界はつながっている」と生活者の目線を導いていくような役割を、もっと戦略的に考えてほしいです。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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