日本の医療をGAFAに牛耳られない為に必要な策 個別商品・サービスでなくエコシステムがカギ
また個人情報へのアクセスは個人のポータルサイトから確認でき、住民票が発行されるとプッシュ通知が来る仕組みに。こうしてシステム(利便性)×プライバシー(個人の尊厳)×セキュリティー(安全性)の三位一体を構築してこそ、利便性の追求も加速できるのです。大切なのは部分最適ではなく、三位一体の全体最適だと言えます。
医療機関のマインドセットを刷新する
最後に、DXに直面するヘルスケアの現場には「マインドセット」の刷新を求めたいと思います。大きな示唆を与えてくれる本を紹介します。『心をつなぐ医療機関 UCLAヘルスケアシステム 患者満足度95%へと導いた 最強のリーダーシップ』(ジョゼフ・ミケーリ著、月沢李歌子訳、日本経済新聞出版)です。アメリカの医療機関UCLAヘルスシステムは、独自の行動原則やマネジメントにより極めて高い患者満足度を実現したことで知られています。なかでも有名なのは「CICARE」と呼ばれるバリュー(価値観)です。CICAREとは、各バリューの頭文字をとったものです。
ここから読み取れるのは、テクノロジー企業と同様の、徹底的な顧客(=患者)至上主義です。私は、それこそ日本のヘルスケア、特に医療の現場に欠けているものだと痛感した経験があります。アメリカに留学したときのことです。ある日病院を訪れた私は、診察室で「きょうはドクターの〇〇、看護師の〇〇、〇〇のチームで医療サービスを提供します」といった自己紹介を受けました。その挨拶1つで、どれだけの信頼感、安心感が生まれたかわかりません。
いわば、アメリカの医療機関は「サービス従事者」としての意識が高い。もちろん高い専門性を持ったプロフェッショナルとして非常にリスペクトされているのですが、同時に医療をサービス業と考え、患者を第一に考える価値観がありました。残念ながら、こうしたサービス従事者としての意識が、日本の医療現場には希薄です。
医療はサービス業である。DXが進み、異業種からの参入組も増えてくると、そのことに日本の医療機関も直面せざるをえなくなるでしょう。これからコンペティターとなるのは、医療機関ではなく、アップルを始めとするテクノロジー企業であり、彼らほど顧客第一主義を追求しているプレーヤーはいないからです。前回も触れたように、DXの本質は「企業DNAをスタートアップ企業のようなDNAに刷新すること」にあります。テクノロジー企業の侵攻に対抗するためにも、まずはマインドセットを刷新し、「医療もまた顧客を第一に考えるサービス産業である」という原点に立ち返るのが望ましいのです。
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