日本の医療をGAFAに牛耳られない為に必要な策 個別商品・サービスでなくエコシステムがカギ

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つまりノキアには、日本のヘルスケア産業の「反面教師」としてベンチマークする価値があるのです。iPhoneが登場した当初、ノキア役員会は「iPhoneは競合ではない」とし、警戒しませんでした。ノキアのみならず、NECや東芝、富士通、ソニーなど、日本の携帯電話メーカーも同意見だったと思います。そこに落とし穴がありました。彼らは「新たな競争の脅威を予測しそこなう/甘くみる」という失敗を犯したのです。アップルはスマホというデバイスで勝負をしかけたのではありませんでした。

そのことにノキアが気づいたのは、iPhoneの勝利が決定的になったあとのことでした。そのとき、ノキアのCEOは全社員に向けてこんなメールを送りました。「競合他社のデバイスが私たちの市場シェアを奪っているのではありません。エコシステム全体で市場シェアを奪っているのです」。ここでの競合他社とはアップルであり、グーグルのことです。

ノキアも日本の電機メーカーものちにスマホを発売しましたが、そのときすでにアップルやグーグルはスマホのエコシステム全体を握っていました。つまり、スマホのハードのみならず、スマホのOS、アプリ、サービス等を含めたエコシステム全体を支配していたのです。単なるデバイスメーカーでは、勝ち目はありません。

アップルがヘルスケア産業を破壊する

ノキアの事例から得られる示唆は次のようなものです。テクノロジー企業はエコシステム全体で異業種に勝負をしかけてくる。そしてエコシステムを構築したプレーヤーは産業に破壊的なイノベーションをもたらすことになる。現に、ヘルスケア市場においても同じことが起きています。ノキアの例におけるデバイスにあたるものは、医療機関、医療機器、医薬品、診療所、ドクター、看護師、メディカルのスタッフなど。そしてエコシステムとは、それらを包含するハード、OS、アプリ、ソフト、サービス等の全体、あるいはヘルスケア産業のバリューチェーンにおける多階層のレイヤー構造としましょう。

具体例としてアップルを取り上げます。私は自著『GAFA×BATH』(日本経済新聞出版社)において、アップルはかつてiPodで音楽市場を破壊したように、今度は「アップルウォッチでヘルスケア市場を破壊する」「メディカルビジネスのプラットフォーマーになる」と論じました。どういうことでしょうか。アップルウォッチはシリーズ4から心電図機能を搭載しており、もはや「医療機器」といっても差し支えありません。

またiPhoneに標準搭載されているアプリ「ヘルスケア」は通常「歩数」「エクササイズ時間」等が表示されるものですが、アップルウォッチと併用すると「心拍数」「心拍変動」まで表示され、異常が検知されるとリアルタイムでメッセージが届く仕組みになっています。もっとも、ここで論じたいのはこうした高機能なデバイス単独ではありません。より重要なのは、こうしたデバイスを組み込んだアップルのヘルスケア戦略であり、エコシステムのほうです。

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