これがゼンショー流の成り上がり術だ ゼンショー・小川社長が語る経営哲学(2)
――しかし、小川さんは何をどう変えていかれたんですか。
中身を見ると、まず商品のレベルを上げるべきだなということ。2番目に、ちんたらやっていて生産性が悪いなと。牛丼屋をやって上場させているじゃないですか。そういう目で見ると、まだムダ、ムラ、ムリがいっぱいあって、とにかくノロいなと。歩く速さから始まってね。
丁寧のつもりなんだろうけれど、テーブルのところへ来て深々と頭を下げて、ゆったりやっているわけ。当時、客単価1000円でしたけれども、1000円のレストランにお客様が望むのはそういうことじゃないだろうと。1970年代くらいのファミレスが始まった頃は、ちょっとハレの日で、「よし、お父さんが飯を食いにすかいらーくに連れて行ってやるぞ」みたいに言って、それで張り切ってみんなで行ったかもしれないけれども、もう2000年ですよ(笑)。
ファミレスも横並びで、という消費者の印象の中で日常的になったじゃないか。ハレの日のニーズから日常的なニーズに移り変わっているのに、相変わらず晴れの日に接客するようにゆったりと「ようこそお越しくだいました」と。そういうのは自己満足であってね。
自分たちはいいサービスをやっているじゃないかと思っていたけれども、お客様からすると、ファミレスは日本で始まってもう二十何年もたっているのに、そんなことは望んでいないんじゃないか。頼んだ料理はテキパキとすぐ作って、熱いものは熱くすぐ出してほしいと。
エブリデイ・エブリバディとわれわれは言っているわけだけれども、日常的な生活の中でテキパキやってほしいということです。そういうふうにお客様のニーズが変化している。ファミレスに求めるものは根本的に変化してきている。それなのに、昔やったハレの日対応をやっているから、ミスマッチで、オーダーリングも遅い、運ぶのも遅い。ゆったりとやっている。消費者の望むところとのミスマッチですね。
もう一つは、その裏返しとして見れば、生産性が低いんじゃないのと。だから儲からない。当時の売上高が330億円に対して、経常利益が7億円くらいかな。利益率は2%ちょっとね。それを1年半かけて利益率6.5%、3倍くらいまでしたわけです。20億円くらいの利益が出るようにしたわけです。
それで、自分の考えていたことは正しかったじゃないかと。お客様が離れたかというとそうではなくて、お客様はもっと来るようになったわけです。テキパキやって、会社は3倍儲かるようになった。みんなハッピーじゃないかと。お客様も、会社の従業員もね。それがM&Aの成功の出発点ですね。
普遍的なサイエンス
――それまでやってきたすき家での店員の動作、すき家の規律、そういうのをココスに持ち込んだということですね。それでココスが変わったということですか。
そのまま持ち込むわけにいかないですよ。基本的な考え方、やり方ですよね。作業分析のやり方とか、それを再構成して、動作経済の原則というわけですけれども、一つの作業、動作、関節ごとの動きに分解して、そこから無駄なモーションをなくしていく。より短い時間で疲れないでできるようにやり方を変えていくわけです。
そういう積み上げが、無理しないでも生産性が上がると。日本では製造業も戦後一貫してやってきて、世界に通用するような生産性を実現してきたわけですね。そういうやり方を踏まえて、すき家でもやってきたし、それをココスでもやった。
しかし、別にすき家のやり方を移植したわけではないです。すき家の背景となっていた考え方、分析の仕方、やり方をココスでもやって、ココスという業態でも成功させたということなんです。横に移植させようとしたら、ココスの従業員としては多分抵抗感もあるし、うまくいかなかったと思うんです。だから、これはすき家がというのではなくて、普遍的なサイエンスなんだというのが僕の基本的な考えだったし、ココスのメンバーにも言ってきたことです。もっとサイエンスしようよと。
――利益率が6.5%になって、これはやれると。ウェンディーズとかビッグボーイと。
ゼンショーがココスを買ったときは、ボロクソ言われたんです。何で落ち目のファミレスなんか買うんですかとか、ファミレスなんか飽和しているのに何でやるんだ、とアナリストとか周りから言われて、たたかれたわけです。
だけど、そういうふうに立て直しを成功させると、今度は周りの見る目が変わってきて、おお、できるじゃない!と。ということでM&Aの案件が来るようになるんです。その中から選べるようになってきた。というのが次の段階です。年間100件を超えるM&Aの案件が来るようになったわけです。