福岡出身の芸能人が多い起源は「山笠」にあった タモリ、黒木瞳などそうそうたる顔ぶれ

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もともと福岡に限らず、港町の人々は、新しいものが好きな「ハイカラ」な気質を持つ傾向にあるといわれている。中でも横浜や神戸の人々は、いち早く西洋文化を受け入れており、町並みもヨーロッパ風の建物があったりすることで、「ハイカラ」な印象を持たれやすい。その意味で言うと、福岡の人々の気質は「ハイカラ」とは少し違うようにも感じられる。

日本の歴史を振り返ってみると、横浜や神戸は、明治の時代にヨーロッパ文化が一気に流入してきたイメージである。一方で福岡は、長い時代にわたって段階的に外国の文化が入ってきているために、ひとつのイメージでは語りつくせない様相となっているからではないかと思われる。

そうした段階的に導入された外国の文化を、そのままの形で受け入れるのではなく、いったん咀嚼し、日本風にアレンジするのが、福岡の土地柄であると言えるだろう。

こうした新しいものを受け入れて自分の文化に取り入れる気質は、ほかの時代を通じても見ることができる。たとえば、鎌倉時代に博多を通して、禅宗とともにもたらされた茶の文化は、今や日本を代表する文化のひとつとなっている。

また宋の商人の謝国明がもたらしたとされる蕎麦も、今や代表的な日本の食文化である。さらには豚骨ラーメンや明太子も、外国の食文化をヒントにして生み出され、今や福岡を代表する食文化となっている。

国際的に視野の広い人材を輩出

もうひとつ「旧習打破」の気質として重要なのが、海外に目を向けたグローバルな視野である。福岡は国際的に視野の広い人材を輩出してきた土地でもあるが、これも地理的な環境によるところが大きいだろう。

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明治時代に福岡の人々を中心に結成された玄洋社は、当時の欧米諸国の帝国主義と、それに対抗するアジア諸国の独立運動という、大局的な観点から活動を行っていたことは注目すべきである。

それがひいては孫文による辛亥革命を助け、長い目で見ればアジア諸国が植民地から解放されていく歴史的な流れをつくったことは、再評価されるべきであろう。

ここで注意すべきは、彼らは外国かぶれの人々ではなく、むしろ天皇をはじめとする日本の伝統や文化を保守することを標榜していた点である。

グローバルなことと保守的なことは一見すると相いれないように思われるが、これもまた、新しいものを受け入れて自分のものとして取り込むという精神によるものと理解することができるだろう。

福岡の人々がグローバルな視野を持つようになったのは、外国に近いという地理的な要因に加えて、東京や大阪といったほかの日本の大都市から適度に離れていることも大きな要因だろう。

福岡から見ると、東京・上海・ソウルはほぼ同じくらいの距離にある。そのため、東京を上海やソウルと同じレベルで、相対的に見ることができる。そうして世界を俯瞰的に眺めることができる人材が生まれやすい環境が、福岡にはあるのではないかと思う。

石村 智 東京文化財研究所 無形文化遺産部 音声映像記録研究室室長

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いしむら とも / Tomo Ishimura

1976年、兵庫県に生まれる。1999年、京都大学文学部卒業。2004年、京都大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、東京文化財研究所無形文化遺産部音声映像記録研究室室長。専門は考古学・文化遺産学。「太平洋のヴェニス」とも呼ばれるミクロネシア連邦ナンマトル遺跡のユネスコ世界遺産登録にも尽力している。著書に『ラピタ人の考古学』(渓水社)、『よみがえる古代の港』(吉川弘文館)、『海の日本史 江戸湾』(洋泉社/共著)がある

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