不妊治療の保険適用、どんなメリットがあるか 治療内容を標準化、自己負担額も軽減される

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保険適用によって、効果と比べて割高な価格設定になっている治療法に適正な価格をつけることができる。ましてや効果のない治療法は保険適用されないため、どの治療法が有効かは政府の会議で専門家がお墨付きを与える。

治療の価格を政府が決めることで、どの医療機関で受診しても同じ治療は同じ価格となる。現行の助成制度にある所得制限を撤廃する場合は、保険適用することによって自動的に実現する。加えて、現行の助成制度の下では、ひとまず全額を立て替え払いした後で助成金を受けるが、保険適用されれば自己負担額は3割で済む。

やみくもな保険適用は負担増に

今のところ、次の診療報酬改定は2022年度の予定になっている。厚生労働省は今のところ、不妊治療の本格的な保険適用は2022年度の改定時にして、当面は助成の拡充で対応する考えだ。しかし、保険適用が遅れて助成拡充の期間が長くなれば、受診者のためにならない。

ただ、保険適用の拡大によって、その分だけ保険給付は増えることになる。それは医療保険料の引き上げ要因になる。公的医療保険を運営する保険者や被保険者にとって、やみくもな保険適用拡大は負担増になりかねない。

そうした懸念に対しては、不妊治療の保険適用の拡大に合わせて、後期高齢者医療制度で75歳以上の患者負担割合を1割から2割にする対象者を増やすなどして、被保険者の保険料負担が増えないように対処することで緩和できるだろう。

不妊治療は、保険適用の拡大と助成の拡充の規模をめぐり、2021年度予算編成の1つの注目点となろう。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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