政府税制調査会は10月22日、今年3回目となる総会を開催した。同調査会の下に置かれた納税環境整備に関する専門家会合も10月に3回開催されており、首相が安倍晋三氏から菅義偉氏に代わったためか、議論のスピードがあがっているようだ。
第3回総会でデジタル課税の他に議論となったのが、老後にかかる税制のあり方についてである。
政府税調は2019年9月、「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」と題した中期答申を出した。中期答申では、老後の準備を公平に支援するための税制の課題を列挙することはできたが、その具体策については今後の検討に委ねた。
国民の不安は放置されたまま
2019年といえば、老後資金2000万円問題が大いに話題となった。金融審議会市場ワーキング・グループが取りまとめた報告書「高齢社会における資産形成・管理」が発端となり、「老後の生活費の不足分は30年で2000万円になるのか」「公的年金給付だけでは老後の生活は成り立たないのか」といった懸念が噴出した。
当時の議論の雰囲気は、「『老後2000万円』問題の落としどころは何か」にて詳述した。ただ、その後の政策論議は安倍内閣ではほとんど進まなかった。
安倍政権としては、老後2000万円問題が引き起こした国民の不安を、直ちに解消する術を用意できないと認識したのかもしれない。確かに、特効薬のような術はないが、議論を進めなければ、国民の不安は放置されたままだ。
では、どうすればよいか。まず、現役時代に老後に備えた貯蓄をする余裕がない人と貯蓄する余裕がある人という2つのグループに大別して、政策的な対応を考えることが重要である。
貯蓄の余裕がない人に対しては、税制ではなく、社会保障制度で対応すべきである。公的年金は、現役時代に納めた保険料に比例して給付が受けられるが、保険料を多く納められなければ、年金給付の額も少なくなる。それで老後の生活保障が不十分なら、一定以下の低所得者には追加的な給付を出せばよい。既存の制度としては年金生活者支援給付金があり、それを維持・補強していくかどうかが問われる。
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