「老後2000万円」問題打開に必要な所得税の焦点 非課税限度額、退職金税制の改正が求められる

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それはなぜか。退職金税制のせいである。退職金は他の所得と区分して分離課税されており、課税前の退職金額から退職所得控除額を差し引いた額の2分の1を退職所得の金額として、これに累進税率が課されて所得税額が決まる。

「2分の1」の理由はいくつかあるが、1つは一時金払いで高額となる所得に累進課税すると、逆に一時金払いのほうが税負担が重くなることを緩和する狙いがある。

ただ、実態としては、退職所得控除の手厚さや「2分の1」としていることが作用して、一時金払いが年金払いより有利になっている面がある。

退職金税制を使い、所得税負担を軽減

現に、短い年数の期間勤務する人に給与の代わりに退職金で支払う形にし、退職金課税の仕組みを使って所得税負担を軽減させる事例も散見される。給与で受け取って毎年所得税を払うより、受け取りを繰り延べて退職金という形で受け取ったほうが所得税の負担が少なくなるというわけだ。近年の雇用の状況をみると、役員ではなくさまざまな職種でこの仕組みを使って税負担を軽減しているとみられる。

もしこの仕組みが租税回避的に使われているとすれば、改める必要がある。ちなみに、2012年度税制改正で、5年以内勤務の役員等の退職金については前掲の2分の1の措置を適用しないこととなった。

老後の資産形成を支える税制として、年金払いでも一時金払いでも、生涯を通じて所得税負担が等しくなるような方向に税制を改めていく必要がある。当面は、非課税限度額の実質的な統合と、年金払いと一時金払いを中立にする制度改正が焦点となろう。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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