日米拠点で業績向上のトリガーに
伊佐山:せっかくなので、シリコンバレーでのいちばんの失敗談や苦労話、もしくは来る前に心配していたけど、たいしたことなかったよという出来事を教えてください。
杉江:苦労はハイヤリング(人材採用)ですね。米国市場で雇うとなると、日本とまったく違います。全員が全員、自信満々に「君の会社にベストフィットだ」と言う(笑)。 私は人材採用の基準は基本的に2つあって、ひとつは会社のステージにあったスキルの人。もうひとつは僕らのミッションにあった人。ただ、最初のスキルというのは、レジュメを見てもわからない。外村さんにもアドバイスをもらったのですが、絶対に3人以上のレファレンス(信用調査)をとるようにしました。一緒に働いた経験がある人、関係している人から調べています。
僕らはミッションに合うか、はかなり重要視しています。ハードウエアはソフトウエアに比べて長い時間かけて作るーーだからこそ、強い“思い”がないとできない。苦しいときに強い思いを持ってなく、崩壊するチームをけっこう見てきたので。強い思いは事実ベースで考えています。電動車いすユーザーの友達がいるか、家族はいるかなど。あとは1カ月、一緒に働きながら見極めています。
米国でのハイヤリングではとんでもないことも起きました。スティーブ・ジョブズと知り合いで、創業メンバーとしてアップルで働き、ロンドンでベンチャーキャピタルをしていたという人物がいて、すごい経歴なのでアドバイザーをやってもらおうかと思っていました。ただ、よくよく調べてみると、「違う」という詐欺まがいのことがあったのです。サーチファームを介してもそういうことがありました。
伊佐山:確かに日本的な感覚だと、すばらしい履歴書で、ましてや人材系会社からの紹介であれば大丈夫だろうと思って雇ってしまうと思います。ただ、米国の場合はご存じのように履歴書はかなり誇張が多いですし、でたらめも多い。本当に実績があるかもわからないから、杉江さんがおっしゃるように、裏取りしないと痛い目に遭うなと私も実際に仕事をしていて感じたことはあります。
続いて、松田さん、お願いします。
松田:私の場合は、普通にビザで困っていたのですが、それは外村さんに助けていただいてなんとかなりました。シリコンバレーに基盤を置くときに、誰をシリコンバレーのトップにするか――を悩みましたね。私たちのビジネス分野では、シリコンバレーに基盤がないとグローバル企業になれないとわかったのですが、実際に誰を送るか。本来であれば、英語ができるいちばん有能な社員を送るのが常套手段なのですが、シリコンバレーの経営者の感性を私自身が肌で感じないかぎりは、グローバル企業になれないと感じて、私がシリコンバレーに住むと決意しました。そうなると逆に日本はどうなるのかと。ただ、よく考えると、日本には10年以上働く社員が二十数名いる。シリコンバレーに社員を派遣するより、日本を彼らに任せるほうがはるかに合理的だと思いました。
この心配について、社外取締役にも質問したのですが、「むしろそれしか許さない」と言われました。
伊佐山:心配していたけど、そうではなかった、と。
松田:そうですね。シリコンバレーに移住後は、米国でのディールが決まっていき、日本は私がいない分、自分たちで考えて動くということがあり、業績もすごく伸びました。利益は4~5倍になりましたし、株価も昨年5.5倍になりましたし、全体的にすべてよかったと思いますね。
伊佐山:業績が上がるということは、大企業の経営者は皆、海外に引っ越すべきなんですね(笑)。
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