新型コロナ対応「日本モデル」とは何だったのか コロナ民間臨調「調査・検証報告書」の中身

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新型コロナウイルス感染症の治療薬として期待されたアビガンについては、安倍首相は3月ごろより複数の国への供給を約束していた。総理連絡会議では度々安倍首相から厚労省に対してアビガンの早期承認に向けて尽力するよう指示が出され、5月4日の会見において「今月中の承認を目指したい」とまで踏み込んだ。しかし、7月10日に報告された同薬の臨床試験の暫定的解析結果においては有意差が認められなかったことが報告され、さらに時間を要することとなった。

国民一人当たり10万円の特別定額給付金の支給においては、予算成立から2カ月経っても支給率が76%に留まった。ドイツなどでは電子申請を通じて法案成立から数日以内に給付金の支給が執行される中、日本ではマイナンバー(国民番号)と振込先の金融機関の口座を行政が紐づけて把握できていなかったことから、給付金支給について各自治体において煩雑な事務作業が必要となり、政策執行に時間を要した。

アナログな仕組みが足を引っ張った

感染症対策の出発点となる患者発生動向等の把握(サーベイランス)の脆弱性も政府対応の足を引っ張った。医療機関が手書きした患者発生届を保健所にFAXし、保健所職員が再度システムに手入力するという当初のアナログな仕組みは、全国的な感染拡大状況のリアルタイムでの把握を困難にし、保健所職員を疲弊させた。

『新型コロナ対応 民間臨時調査会 調査・検証報告書』(ディスカバー・トゥエンティワン)。10月下旬発売予定です

厚労省は慌てて患者情報把握のためのHER-SYSと医療機関の人員・物資の備蓄状況を網羅するG-MISというオンライン情報共有システムの開発に取りかかり、情報共有の効率化・迅速化を図ったが、その本格的な導入・展開は5月以降までずれこんだ。

政府方針の円滑な執行に苦労した一連の経緯を振り返り、加藤厚労相は「デジタルトランスフォーメーションの遅れが最大の課題だった」と悔しさをにじませた。危機対応において、決定された方針の迅速かつ適切な執行は、方針決定と同等かそれ以上に重要かつ困難である。

特に意思決定の場と執行現場の間に多数の組織階層が挟まる場合、執行リスクは方針の成否を左右するほど大きなものとなりかねない。デジタル化の遅れや硬直的な調達ルールなど危機を通じて明らかになった日本の政策執行力の課題について、早急な手当てが求められる。

提言:省庁横断的な司令塔機能の下、行政のデジタル基盤を抜本的に強化する
省庁横断的な司令塔機能・開発オーナーシップをもった組織の下で、以下の3つの観点から政府のデジタル化を一気に推進する。
① 省庁・自治体間のデータ利用基盤の整備
② 企画段階から協働できる柔軟で段階的な予算・調達の仕組みの導入
③ 数百人単位のITエンジニアの内製化
アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)
Asia Pacific Initiative

一般財団法人日本再建イニシアティブ(RJIF)を発展的に改組して、2017年7月に発足。アジア太平洋の平和と繁栄を追求し、この地域に自由で開かれた国際秩序を構築するビジョンを描くことを目的とするシンクタンク、フォーラム。船橋洋一氏が理事長を務める。

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