新型コロナ対応「日本モデル」とは何だったのか コロナ民間臨調「調査・検証報告書」の中身

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経済ダメージの最小化の面でも「日本モデル」は健闘した。欧米諸国を中心に採用された都市封鎖や広範な休業命令などの強力な経済制約手段ではなく、市民への行動変容要請、大型イベントの開催自粛要請、営業時間の短縮要請など、強制力を伴わない「ソフトロックダウン」を通じ市民の協力を求めた。その結果、日本のGDPは2020年4~6月期で前期比マイナス7.9%に落ち込んだが、落ち込み幅はG7の中では最も低い水準に抑えることに成功した。また、失業率も7月に2.9%までわずかに上昇したものの、その水準及びコロナ危機前からの上昇幅において他の先進諸国より限定的であった。

国民の支持は広がらず、国際社会も懐疑的

賞賛に値する成果を出したはずの「日本モデル」。しかし政府の新型コロナ対策に対する国民の支持はなかなか広がらず、国際社会も日本の対応の効果に引き続き懐疑的な視線を向けた。そもそも「日本モデル」は本当に「モデル」と呼べるものなのか。実施された政策群は、本当に科学的根拠と政策目標に基づく政策フレームワークなのか。そこに政権の意志、すなわち「戦略」はあったのか。

我が国において、今回のような本格的なパンデミックの到来は、想定外であった。当然、その備えも十分でなかった。

もともと日本の感染症対応の法体系は、長期間にわたる蔓延防止措置の必要を想定した設計となっておらず、強制力をもって営業停止や移動制限などの私権制限を課す法制が用意されていなかった。

国会審議の時間的制約の中で、官邸スタッフによれば欧米型のロックダウンを可能とする新法の制定は「議論の俎上には載らなかった」。4月7日に新型インフル特措法に基づき史上初めての感染症に起因する緊急事態宣言を発出した際、政府内では宣言が何カ月続くか、どのような条件が整えば解除できるのか、その具体的な見通しは立っていなかった。

さらに、当初政府は緊急事態宣言発出に伴って市民の外出・移動の自粛要請強化を予定していたところ、東京都の小池百合子知事を筆頭に自治体の知事らが業種指定の休業要請の発出を求め、政府の描いていたシナリオは大きく崩れた。将来的な感染拡大パターンにつき一定のシミュレーションはあったが、政府内でこれらシナリオ別の具体的な対応策の検討がされた形跡は確認されなかった。

関係者の証言を通じて明らかになった「日本モデル」の形成過程は、戦略的に設計された精緻な政策パッケージのそれでなく、さまざまな制約条件と限られたリソースの中で、持ち場持ち場の政策担当者が必死に知恵を絞った場当たり的な判断の積み重ねであった。

8月28日の辞任表明に際して、安倍晋三首相は政権の新型コロナ対応を振り返り、「今までの知見がない中において、その時々の知見を生かしながら、われわれとしては最善を尽くしてきたつもり」と述べた。官邸中枢スタッフの1人は、その混乱の実態を直裁にこう評した。

「泥縄だったけど、結果オーライだった」

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