私が想起したのは、フジテレビ『笑っていいとも!』における、明石家さんまとタモリの人気コーナーである。コーナータイトルは何度か変わったが(「日本一の最低男」など)、基本は2人の雑談。それがめっぽう面白く、画面にかじり付いた日が懐かしい。
ただし、ナイツの「雑談」は、さんま&タモリとは少々異なり、もっと柔らかくおっとりとしていて、だからこそ耳に心地よい。とても聴き取りやすいナイツ2人の口跡に、当意即妙な塙宣之のボケ、それをリスペクトしつつ、丁寧にツッこむ土屋伸之、そんな2人がとめどなく話し続ける、他愛のない楽屋話──。
この「雑談ラジオ」を聴いて、私は、大げさに言うと、ラジオ界の新しい市場、新しい未来を感じたのである。
「情報」溢れる旧来型ラジオに風穴
関東のAMラジオ界、聴取率的にはTBSラジオの天下が長らく続いている。同局をよく聴く1リスナーとして感じるTBSラジオの戦略は、かつてよく言われた「AMラジオ=商工自営業者向けメディア」という像から脱皮するための「情報主義」とでも言うべきものである。
都市型で、ジャーナリスティックで、サブカルチャー的な「情報」で、(意識の高い)若年層をも引きつける戦略。その裏返しとして、一昨年より、昭和・平成におけるAMラジオのコア・コンテンツだったプロ野球中継を廃止するという決断に至る。
TBSラジオに限らず、最近のAMラジオ番組は伝えなければいけない「情報」でいっぱいである。まずは何といっても、この10年で飛躍的に増えた通販コーナーに加え、こちらは従来からのニュース、交通情報、天気予報、そしてメール、FAX、リクエスト曲、聴取率週間の告知などなど。
私はこの4月から千葉のbayfmでレギュラーの音楽番組を担当しているが(『9の音粋』月曜21時~)、楽曲に加えて、伝えるべきあれこれが思いの外多くフリートークを出来る尺が、実はかなり短いことを実感しているのだが……。
そんな中、『ナイツ ザ・ラジオショー』の「雑談ラジオ」は、TBSラジオの戦略の真逆を行くものである。ナイツの塙宣之は「お昼の時間は情報番組が多いんですが、あまり情報を入れずにお笑い多めで、ニュースや情報はその後の辛坊(治郎)さんにお任せします」(TOKYO HEADLINE WEB/9月7日)と明言する。
「雑談ラジオ」は、まず旧来のAMラジオのターゲットである、ミドル・シニア層の「商工自営業者」を再び掘り起こす可能性があろう。さらにはここ最近、ラジオに吸い寄せられてきた、新規層にもフィットすると思うのだ。
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