ジリ貧だったトランプが巨万の富を築けた理由 すべては「アプレンティス」から始まった(前)

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宣伝契約を結ぶにあたり、トランプはそれほど相手にこだわらなかった。ステーキからウォッカ、ボードゲーム、コロンに至るまで何にでも自分の名前を貸し出した。ある報道用資料の言葉を借りれば「手頃な価格でトランプ流のライフスタイルを味わいたいとお考えの消費者」のために、トランプは「サータ」マットレスの会社とライセンス契約を結び、最終的に1500万ドルを超える利益を手にした。フィリップスヴァンハウゼンなどのアパレル会社が手がけるトランプのネクタイ、シャツ、下着からも1500万ドルが転がり込んだ。

契約料はどれも安くはなかった。ワーナー・ミュージックは10万ドルを支払って、携帯電話の着信音コレクションにトランプを起用した。「君に電話だ。重要な話なんだろうな。私にも君にも、小さな話をしている暇はない」――そんなセリフを発するものだ。

ユニリーバは洗濯洗剤ブランド「All(オール)」の新製品を宣伝するために総合的なマーケティングキャンペーンを立ち上げ、その中心にトランプを据えた。納税記録によれば、ユニリーバから直接支払われた85万ドルのほかに、トランプは同社が雇ったPR会社からも25万ドルを受け取っていた。このPR会社は「トランプ級の柔らかさ」というキャッチフレーズを掲げた広告キャンペーンの運営を手伝っていた。

ユニリーバがマンハッタンにあるトランプタワーの外で企画した派手な広告イベントで、トランプは洗濯かごを高く持ち上げた。かごの前面には「オール」の新製品広告。ユニリーバの説明では、慈善活動で寄付された服を洗濯するために、トランプは『アプレンティス』の厳しい世界からつかの間の休息をとった、ということになっていた。

ジャーナリストにも電話営業

ジャーナリストに電話をかけて、「オール」を褒める記事を書かせるよう仕向けることも契約に含まれていた。例えば、トランプはボストン・グローブ紙の記者に「オール」をこう宣伝している。「ユニリーバは立派な会社だ」「この製品は私の母も使っていた」――。

「オール」宝くじキャンペーンの一環を成すオンラインゲームの吹き替えも行った。ゲームの中ではデジタル版の小さなトランプが洗濯をし、ジョークを飛ばす。「ドナルドはドライクリーニング店40軒分の仕事ができるぞ!」。

宝くじの勝者となったのはトレイシー・ライト。インディアナ州ブラジル市に住む若い母親で、地元のウォルマートで洗剤を買っていた。ライトはニューヨークへの無料招待旅行を獲得し、ニューヨークでトランプと一緒に写真に納まった。「彼に会ったのは『アプレンティス』のシーズン最終回翌日。信じられないくらいフレンドリーだったわ」とライトは地元紙に語っている。「彼はすごく機嫌がよかった」。

(後編に続く)

(執筆:Mike McIntire記者, Russ Buettner記者、Susanne Craig記者)
(C)2020 The New York Times News Services

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