ジリ貧だったトランプが巨万の富を築けた理由 すべては「アプレンティス」から始まった(前)

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人気番組『サバイバー』を手掛けたことで知られるイギリスのテレビプロデューサー、マーク・バーネットが別のリアリティー番組のアイデアを携えて接触してきたのである。重役室が舞台の番組だ。起業家の卵たちがニューヨークに集い、トランプに認められるまで競争し、勝者がトランプのプロジェクトで働く――。これがバーネットの構想だった。

トランプはこの番組(『アプレンティス』)のホスト役を大喜びで引き受けた。そして、挑戦者が最後の1人になるまで毎週「お前はクビだ」と叫ぶ、億万長者のキングメーカーを派手に演じるようになる。

番組制作スタッフの中には、不動産帝国を動かしているとされる裕福なビジネスマンが、どうしてこのような番組に出演する時間を捻出できるのか、いぶかる向きもあった。だが彼らは間もなく、トランプの現実がイメージとは異なっていることを知る。

「オフィスに入ると、家具が傷んでいた」。番組プロデューサーの1人だったビル・プルーイットは2018年、『ニューヨーカー』誌にこう語っている。「帝国がボロボロになっていることを示す片鱗は至る所に見られた。そうではないイメージを創り出すことが、私たちの仕事だった」。

バーネットは間髪入れることなく、「気高い成功者トランプ」の虚像を生み出していく。2003年10月、バーネットはニューヨーク・タイムズに対し新番組の狙いをこう語っていた。これはトランプが「なせばなる」精神で仕事を獲得し、経済の安定を手に入れた方法を広く伝えることで世の中に「恩返し」をする番組なのだ、と。

「世界がいま安全なのは何のおかげだろうか?」バーネットは問いかけた。「私はアメリカのドルのおかげだと考える。その源泉は税金であり、つまりはドナルド・トランプのおかげなのです」。

番組でつくられたトランプの虚像は、急上昇する人気を背景に、電話の着信音やハンバーガー、さらには洗濯洗剤にまで持ち込まれた。

トランプ自身は何年も連邦所得税を納めていなかった。どのような所得があろうとも、常態化した巨額の事業損失がそれを帳消しにしていたからだ。

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