スカパーとJ:COM、コロナ禍で見た決定的な差 両社の明暗をわけた「動画配信」との連携

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衛星放送が厳しい状況にある最大の要因は、契約に至るまでに“高いハードル”があることだ。衛星放送では、受信可能なアンテナが必須だ。さらに、テレビに付属されているCASカードと呼ばれるカード番号も必要で、クレジットカードさえあれば簡単に契約できる動画配信と比較すると手続きが多い。

WOWOWは動画配信サービス「Paravi(パラビ)」経由でネット契約できるプランを持つが、WOWOW全体の加入件数を押し上げるまでの効果は出ていない。そうした事情も踏まえ、自社サイトからも動画配信と同じくネットだけで契約できるプランを計画。動画配信と比較したときの加入ハードルを埋めるべく、2020年度の下期に開始することを目指している。

他方、スカパーJSATではそうした動きはまだ見られない。同社の米倉社長は「日本はかなりマチュアードな(熟成された)世界だ。(動画配信に移行するのは)物理的には可能かもしれないが、時間とコストを考えると、やはり違うだろうと思う」と話すなど、動画配信への全面移行に否定的だ。

そこには、スカパーJSATの事業構成が大きくかかわっている。スカパーJSATは、衛星放送「スカパー!」を運営するメディア事業と、衛星の運用・管理などを行う宇宙事業の2事業から成り立っている。

その宇宙事業のうち、衛星を利用した放送が営業収益に占める割合は30%。もし、動画配信のような通信専門の事業を打ち出せば、自社の収益柱である宇宙事業に大きな影響を与えかねない。そのため、J:COMと同じ各放送事業者の番組を放送するプラットフォームでも、スカパーJSATが動画配信を行うことは決して容易ではない。

独自サービスの展開がカギ

そこで同社は、すでに加入している会員に対して、コンテンツ視聴だけではなく、加入者限定の観戦ツアーといった形でファンを開拓する青写真を描く。「こうした取り組みで、会員数が300万、400万にはならなくても、価値のあるサービスだと感じてもらい、(会員数を)安定させたい。単純にスカパーチャンネルを見て、『こういうことやっています』というのでは限界がある」(米倉社長)。

WOWOWも同様の方針を掲げており、2020年8月に部署再編を実施。コミュニティプロデュース局を新設し会員ロイヤリティの醸成を狙う。

さまざまな策をめぐらせ、動画配信に戦いを挑む両社。動画配信とのタッグで伸びるJ:COMに対して、動画配信にはない魅力を作り出せるかが生き残りのカギとなりそうだ。

井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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