フロマン通商代表が置かれている立場とは?
フロマンvs.甘利両氏は、それから2番連続の徹夜交渉に及ぶことになる。伝えられるところによれば、フロマン通商代表はかなり「無理筋」の要求を突き付けてきたらしい。牛肉や豚肉への関税撤廃はまあ「ご無理ごもっとも」だが、アメリカ車の安全基準を緩和せよというのは、さすがに「ご無体」であった。
はっきり申し上げるが、「アメ車」が日本で売れていないのは、日本市場が閉鎖的だからではない。単に魅力がないからである。嘘だと思ったら、東京都内の金持ちアメリカ人たちが、どんなクルマに乗っているかを調べてみればいい。麻布狸穴(まみあな)町の東京アメリカンクラブの駐車場に行けば、一目瞭然だ。ベンツにアウディ、BMWなどのEU車に、後はレクサスばかりが並んでいる。
というわけで、日本ではフロマン代表の評判は極めて悪い。「日本は脅せば引くと思っている」「古いタイプのネゴシエイター」「すでに決まった話も蒸し返してくる」などといった声が飛び交っている。
が、ここで筆者が思い出すのは、かつて先輩商社マンから教わった金言である。
「無茶なことを言ってくる客は、かならず誰かに言わされているものだと思え」。困った人だと思っている相手が、実は先方の社内では苦しい立場であった、というのはよくある話である。
そういうときは、できる範囲で向こうの顔を立てておきなさい。のちのち深くて長い信頼関係が築けるからね、というのが先輩の教えであった。
フロマン通商代表も、多分に苦しい立場なのであろう。おそらく銀座の鮨会談に出席して談笑している写真を撮られでもしようものなら、「アイツはなんだ!」と背後からお叱りが飛んでくるのであろう。だから、日米共同声明の発表も翌朝まで延期して、宮中晩餐会もスキップして甘利大臣を相手に、徹夜の交渉に臨んだ。
「何もそこまで…」とは思うけれども、すべては背後で見張っている米議会やロビイング団体に対する「演技」だと考えれば疑問は氷解する。おそらくフロマン氏は、日本側とにこやかに食事している写真を撮られることを避けたのであろう。その代わりに、「日本側にコーヒーを差し入れする」映像は撮らせている。
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