せめてオバマ大統領の支持率がもう少し高ければ、「大統領の顔を立ててくれよ」と言えるのだが、議員たちは秋の選挙を前に気もそぞろだし、ロビイング団体は「選挙手伝ってやらんぞ」という殺し文句がある。
しかもオバマ政権は、通商交渉に必要な優先一括交渉権(TPA)を米議会から勝ち得ていないという弱みがある。それがないと、交渉相手国としては米政府をどこまで信用していいかわからない。せっかく合意ができたとしても、後から米議会に「ちゃぶ台返し」をされてはかなわない。
紛らわしくて恐縮だが、米政府がTPP交渉を行うためには米議会からTPAを取らなければならず、しかしTPAを取るためにはTPPで魅力的な条件を獲得しなければならない。もっと言えば、「日本からこんなにいい条件を引き出しました」と国内向けにアピールする必要がある。つまり米政府にとって、TPPとTPAは「鶏と卵」の関係なのだ。
逆に日本側はどうかと言えば、今の安倍内閣は「消費税を上げても支持率が落ちない」というミラクル政権だ。しかも先に日豪EPAで合意しているので、このままだと豪州産牛肉だけ関税が下がり、米国産牛が日本市場で不利になるという構図になっている。つまりアメリカとしては、急いでTPP交渉で豪州を上回る条件を獲得する必要がある。このため「日本抜きでTPP交渉をやるぞ」という脅しが効かなくなっている。
以上のような日米両政府の都合を考えると、なるべく事前の期待値を下げておいて、土壇場で「おやっ、合意ができたぞ!」となるのが一番良い。ということで、来週のTPP閣僚会議の展望は、意外と明るいのではないかと筆者は踏んでいる。
もうひとつ、楽観論の根拠を紹介しておこう。来週の閣僚会議の開催場所は、またしてもシンガポールが引き受けてくれた。しかし2月の閣僚会議が決裂した際は、彼らは「こんなことならもう二度とやらない!」と苦情を言っていたのである。開催場所を引き受けるのは、交渉が成功して「シンガポール合意」とか何とか呼ばれるのを期待してのことだ。そういう計算高いシンガポール政府が、またも会場を引き受けてくれたということは、少なくとも彼らは「成算あり」と読んでいるのであろう。
以上、すべて状況証拠からの推論であり、特段の内部情報を得ているわけではないことを申し添えておく。まっ、競馬の予想と同じだね。
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