「PCR受診で住宅ローン借りられない」説の真実 団信「告知義務違反」の誘惑と違反者の末路
それはどのような場合でしょうか。まず、PCR検査を受けたが結果が出ていない場合が想定されます。通常の生命保険では、加入を見送る判断となるケースです。理由は「疾病可能性があるから」。
例えば、月曜日にPCR検査を受け、火曜日に団信に申し込み、水曜日にPCR検査の結果が出る、という場合です。団信を申し込む火曜日の時点では感染したとはわからず、水曜日に初めて感染の有無がわかります。ということは、検査結果待ちのタイミングで団信を通すわけにはいかないことになります。
また、何度かのPCR検査のあと、ようやく陽性が判明するケースもあれば、治療後に何度かPCR検査を実施して、何度目かに再度陽性となるケースもあります。
このような可能性が存在する以上、「若ければ重症化リスクが低いから、コロナにかかっても住宅ローン返済に問題ない」というような、お金を借りる側の論理は通用しません。住宅ローンを貸した直後に、新型コロナウイルス感染症に伴う肺炎などで亡くなる可能性がある以上、団信を通すわけにはいかないのです。
考えておきたいもう1つのケース
もう1つ気になるのは、のちのち陽性と確定した場合と、濃厚接触など感染リスクの高い時期が団信申し込み前である場合です。一般的に保険に申し込む前の時点における何らかのリスクが原因で、保険加入後に発病・発症した場合、保険金支払いの対象とはなりません。
例えば、以下のようなケースが考えられます。月曜日に職場でクラスターが発生し、火曜日にPCR検査を受け、木曜日に検査結果が出て陰性だった。そこで金曜日に団信に申し込み、その際にPCR検査を受けており、結果が陰性であったことを記載したところ、翌週月曜日に団信の審査が通った。
しかし念のため、水曜日に再度PCR検査を実施し、金曜日に陽性と判明して自宅待機に。自宅待機期間中に当初の予定どおり住宅ローンを借りたものの、住宅ローンの融資実行後に急激に体調が悪化し死亡。このようなケースがないとも限りません。
団信の引き受け側としては、加入延期の判断を行わないと、未知のウイルスによる予測不能のリスクを抱え込むことになります。こうなってくると、告知書の既往症や疾病歴を査定する保険会社の担当者がどのように判断するかによります。
筆者の知る限りでは、保険の引き受けはAI(人工知能)ではなく、人手を使って査定しています。某銀行ドラマではありませんが、厳しい検査官と緩い検査官がいるわけです。たまたま厳しい検査官であれば、謝絶(加入不可)と判断され、たまたま緩い検査官だと保険が成立するということもありえます。
つまり、PCR検査を受けて住宅ローンが借りられるかどうかは、保険会社のみぞ知る事項となります。ケースバイケースのため、大丈夫かどうかは団信申込書を提出しなければわからないのが現実。YESでもなければNOでもない、玉虫色の状態です。
明確にしてほしいと考える読者もいると思いますが、保険の引き受け基準は保険会社ごとのノウハウ蓄積の結果でもありますので、積極的に開示することはありません。また、開示することは「モラルリスク」といって、危険性のある人がリスクを隠して保険に加入するということにつながりかねないため、注意が必要です。
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