一方、9月1日現在、日本の検査能力はPCR検査が約6万件で、抗原検査が約3万4000件だ。これではインフル流行時には太刀打ちできない。
日本が貧弱な検査体制で第1波をやり過ごすことができたのは、2019~20年のシーズンは1月以降にインフルの流行が収束したためだ。発熱で病院を受診する患者が少なかった。もし、インフルが流行していれば、医療現場は大混乱に陥ったはずだ。
今秋以降、そのような状況になれば、コロナ感染が否定できない患者に対しては、病院、自宅、あるいはホテルでの隔離を勧めざるをえなくなる。このような状況に陥るのは避けたい。そのためにはインフルやコロナに罹らないように注意しなければならない。手洗いやマスクなど基本的な対策に加え、私はインフルワクチンの接種を強くお奨めしたい。インフルに罹らなければ、コロナ感染疑いとして扱われずに済むからだ。
実はインフルワクチンを推奨するのは、もう1つ理由がある。それはインフルワクチンがコロナ感染自体をある程度予防する可能性があるからだ。
6月4日、米コーネル大学の医師たちは、イタリアの高齢者を対象にインフルワクチン接種率と、コロナ感染時の死亡率を調べたところ、両者の間に統計的に有意な相関が存在したと報告した。インフルワクチン接種率が40%の地域のコロナ感染の死亡率は約15%だったが、70%の地域では約6%まで低下していた。
インフルワクチンが免疫力全体を活性化?
もちろん、この結果の解釈は慎重であるべきだ。ワクチン接種率が高い地域は、経済的に豊かで健康状態がよい。両者の関係は単なる交絡かもしれない。ただ、彼らはこの点も解析し、その可能性は低いと述べている。
彼らが考えるもう1つの可能性は、インフルワクチンが免疫力全体を活性化し、インフルだけでなく、コロナに対する免疫力を高めたことだ。これは結核予防のために接種されるBCGワクチンが、コロナに有用とされる機序と同じだ。
BCGについても、最近、ギリシャの医師たちから興味深い研究が報告された。彼らは65才以上の入院患者198人を対象に、退院時にBCGワクチンとプラセボを接種する群にランダムに振り分け、その後、1年間に感染症(主に呼吸器感染症)を発症する頻度を調べた。
中間解析の結果は興味深かった。感染症を発症したのは、BCG群で78人(25%)、プラセボ群で72人(42%)であり、その差は統計的に有意だった。BCG接種が感染症発症率を45%減らしたと言えそうだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら