主要業界別・2010年の見通し~格付け回復への条件《ムーディーズの業界分析》
ムーディーズは、日本の家電メーカーの業績回復は、緩やかではあるものの10年も続くものと予想している。これは、コスト削減の継続的な実施による営業利益とキャッシュフローの改善が続くことが見込まれるためである。また、世界景気の回復に伴い、10年末にかけて主要製品に対する需要も改善する可能性がある。
しかしながらムーディーズは、いくつかの理由から、現時点で業界の見通しについて慎重な見方を変えていない。たとえば、対ドル、対ユーロの為替レートは比較的安定化したものの円高は続いており、引き続きこの点はマイナス要因となろう。
最近のウォン高は、確かに韓国メーカーと競合する日本メーカーにとってプラス要因となりうるが、ウォンの水準は金融危機前と比較するとまだ低い。また近年、韓国メーカーの競争力は大きく向上しており、その意味でも予断を許さない。さらに、熾烈な価格競争が日本企業の収益を圧迫するであろう。
事業面では、主要デジタルAV製品、特に薄型テレビ事業の収益性の回復が、引き続き日本の家電メーカーにとって重要な格付け要因となろう。09年においては、薄型テレビ事業の業績悪化が日本の大手テレビメーカー、なかでもソニーの収益性を大きく圧迫した。財務面では、バランスシートの改善が重要な格付けドライバーとなろう。格付け対象企業のバランスシートは業績低迷を主因として09年に悪化している。パナソニックについては、三洋電機(Baa1)の買収の影響も大きい。
ムーディーズは、10年においては、営業利益とキャッシュフローの改善に伴い、格付け対象企業のバランスシートは徐々にではあるが、回復していくものと予想している。各社は保守的な財務方針を維持し、コスト削減や設備投資の抑制(減価償却費の範囲内等)によるフリーキャッシュフローの確保と有利子負債の削減によるバランスシートの強化に継続して取り組むであろう。
ただし、市場の低迷は続いており、増資などの資本政策を実施することなしには、短期間でバランスシートを大幅に改善するのは難しいであろう。