主要業界別・2010年の見通し~格付け回復への条件《ムーディーズの業界分析》
しかし、事業再編の程度は企業により、バラツキがあるため、収益性の着実な改善と成長性の確実な回復は、慎重に見極めたうえで格付けアクションに反映させる必要がある。事業再編が奏功すれば営業利益率とキャッシュフローの改善につながるが、そのようなプラスの影響が表れるのは、10年第2四半期(4~6月)、もしくはそれ以降になるとムーディーズは予想している。
一方、日本企業にとっての主要なリスクは、原材料価格の変動、借り入れによるM&A の可能性、為替水準の変動等である。海外の競合企業に対する技術優位を維持するために、日本のメーカーは中核製造部門を国内に残す傾向があるため、為替変動の影響を受けやすい。加えて、環境対応車やエコ家電の購入補助金などの、発展途上国市場と先進国市場双方における政府の景気刺激策の継続の可能性も、日本の事業会社が、どの程度まで事業成長を達成できるかを左右する要因であろう。国内需要に大きく依存する事業は、引き続き内需の弱さが足かせとなるであろう。さらに、公共セクター関連の事業は、09年9月の新政権発足以来、予算方針の不透明性という問題にも直面している。
09年12月末時点で、日本の格付け対象事業会社発行体約110社のうち、約30%の発行体の格付け見通しがネガティブであった。上述したさまざまな課題を考慮すると、海外需要による大幅な売り上げの伸長がなければ、レバレッジの高い企業の格付けは圧力を受けるであろう。格付け見通しが安定化するのは、需要が減少する中でも営業利益とキャッシュフローを維持するための固定費削減と事業再編、あるいは増資によって、ムーディーズの予想に沿った財務プロファイルの改善を実現できる企業だけに限られるであろう。
主要業界の見通し
自動車業界
ムーディーズは09年第3四半期に、世界の自動車業界の見通しをネガティブから安定的に変更した。日本の発行体の収益は、08年第4四半期と09年第1四半期に大幅に悪化し、この期間にムーディーズは日本の大手自動車メーカー3社を格下げしたが、その後は安定的に推移している。
日本の自動車メーカーの格付け見通しに関し、ムーディーズが関心を持っているのは、各社が収益性をどの程度の水準に維持できるのか、また、営業利益率が以前の1ケタ
台後半という高水準に回復するまでにどの程度の時間がかかるのか、である。