インターネット「海底の動脈」の知られざる全容 世界の枢要であり安全保障上のリスクをはらむ

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海底での切断は、次の4つの原因で発生する。

① 底引き網などの漁業によるもの
② いかりを引き上げたり引きずったりすることによるもの
③ 浚渫(しゅんせつ〈sand dredging〉)と呼ばれる海底の土木工事によるもの
④ 地震や海底の地すべりなどの自然災害によるもの

このような課題に対応するために、世界の海洋への海底ケーブルの敷設は、国際ケーブル保護委員会ICPC(International Cable Protection Committee)という組織によって調整されていてその守備範囲は世界のケーブルの97%に及んでいる。

台湾の南に集中する日本からアジアのケーブル

台湾の南には日本からアジアへのほとんどのケーブルが集中していて、2005年以降にこの海域での海底ケーブルの障害は平均週に1回は発生しているという統計が報告されている。この傾向は年々強くなっているので、切断の障害は地震などの自然災害以外の要因が増加していることになる。アメリカからアジアへの通信ケーブルは太平洋から茨城、千葉、三重などの日本経由であったことを鑑みると、北米と東南アジアの通信のほとんどがこの海域の障害に悩まされていることになる。そこで、学術ネットワークの計画を皮切りに、グアムをハブとした新しい太平洋のケーブルトポロジーが発展しつつある。

西太平洋を、グアムを中心につなぐ新しい海底ケーブルの敷設は、太平洋のネットワークの補完だけでなく、北極を通じたヨーロッパとの新しい経路にもつながっていく。別の驚きを持って受け止められたのは、2020年7月にチリからの南太平洋横断海底ケーブルの挑戦に関する報道であった。

この報道には2つの意味が含まれていた。チリをどの太平洋西側のどことつなぐのかという貿易政策としての意味と、中国企業の提案と、日米仏企業の提案の競争という技術政策としての意味があった。もし報道されているようにオーストラリア経由で日本をつなぐ結論になると南米とアジア、とくに日本との新しい関係が生まれてくることになる。この報道では、海底ケーブル技術の提案が、日米仏とそれを追いかける中国であったわけだが、日本のNECの海底ケーブルが信頼性と精度において極めて高い評価を得ていることが、本件の行方を決定づけると考えている。

4. 何をすべきか

海底ケーブルは、地球全体をつなぎ、サイバー社会を維持するインターネットの動脈である。この動脈網が健全に機能し続けるために国際社会全体で協力しなければならない。

地球と人類の健康のために、新しい動脈網の中心地に位置する日本は、健全な心臓と臓器の役割へ積極的に関わり、必要な働きをする動脈網へと送り出す責任がある。日本は国際情報社会におけるこの責任を果たし、また、ICPCなどの国際組織の一員としてこの動脈の安全を守る主導的な役割を担うことが大切だ。

(村井 純/API地経学研究所所長、APIシニア・フェロー、慶應義塾大学教授、慶應義塾大学サイバー文明研究センター共同センター長)

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
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