インターネット「海底の動脈」の知られざる全容 世界の枢要であり安全保障上のリスクをはらむ

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光ファイバーによる海底ケーブルは現在世界のインターネットで交換されるデータ量の90%以上を担っている。アメリカの国際通信が衛星通信に依存しているトラフィック量が全体の0.37%であるとするFCC(アメリカ連邦通信委員会)の報告を見れば、現在ではほとんどすべての国際インターネットでのデジタルデータは海底ケーブルで交換されていることがわかる。5Gなどのモバイル通信網はインターネットを隅々まで伝える毛細血管網の役割を担う。

衛星通信はファイバーに比べてはるかに狭い帯域だが、宇宙からの通信路であるので、地表のカバー率を上げることができる。静止衛星は赤道軌道上空3万6000km上に並んでいるので、南北の極に近づくと地表からの衛星の仰角が低く大気の影響を受けすぎて信号は著しく弱まる。北極海の氷の融解による海底ケーブルの敷設の画期的な価値は北極海沿岸の人類にとって、初めての高速通信への参加を実現することにある。

2020年現在、海底ケーブル網は世界で約400本。持ち主も、海底ケーブル専門の事業者に加えて、旧来の電話会社の事業者、そして、今日では、マイクロソフト、フェイスブック、グーグルなどのインターネットを通じて提供されるメッセージや音声、動画などのコンテンツやサービスを提供するOTT(オーバー・ザ・トップ)事業者を含めた多様な事業体の共同所有で敷設されている。

経路上のどこかに障害が発生すれば、別の経路を通ってやり直す、という自律分散システムとしてのインターネットの原理は、多様なステークホルダーによって冗長的に張り巡らされた海底ケーブルと親和性がよく、これを使いこなしている。つまり、海底ケーブルは「必ずつなげる」という使命を持ったインターネットの核となる象徴的な動脈である。

北極海の氷が溶ける恐怖と新しい経路が開かれる夢

2. 北極海の異変とまったく新しいネットワークトポロジー

北極海の海氷傾向を独自の方法で持続的に調査するウェザーニューズ社によれば、20年前と比べると海氷域面積は、300万平方km減少しているという。

この現象を受けて、2011年にカナダのArctic Fibre社は、北極航路に海底ケーブル敷設調査船を投入してイギリスからカナダ、アラスカを経て、日本をつなぐ北回りの海底ケーブルを計画した。

この計画を相談されたとき、筆者は長い間描いていた(地球温暖化が進んで北極海の氷が溶解する)恐怖と、(まったく新しい経路が開かれる)夢とが、同時に現実として迫っていることを理解した。当時、日本からヨーロッパのインターネットは、すべて、太平洋を経て、アメリカ大陸を横断し、大西洋からイギリスに行くケーブルで支えられていた。海底ケーブルは比較的安全で自由な動脈である。しかし、大陸横断ケーブルはつねに安全保障上の懸念があるリスク含みの動脈となる。

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