「感情労働」の現場を生き延びる 心が疲れていませんか?

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私たちはこの「総感情労働社会」をどう生きていけばいいのだろう。看護師でエッセイストとしても活躍する宮子あずささん(50)は言う。

「自分の感情を隠蔽しないことが大事です」

看護師は「白衣の天使」のイメージを押し付けられ、本人たちもその像に縛り付けられている。患者を嫌ったり、嘔吐物を処理するときに嫌だと感じたりすると、「私は看護師失格じゃないか」と自身を責める看護師が多い。

「もちろん患者さんに『嫌いだ』と伝えはしませんよ。でも自分の気持ちを認めたとき、楽になれました。嫌いというのは所詮私の好き嫌いであって、その人自身の評価ではない。私が嫌いでもいいんじゃないかって」

武井教授もこう強調する。

「看護師も人間です。腹が立ったりつらかったりすることもある。その気持ちを認めて『だけど仕事だからやらなきゃ』と割り切るようにしなければ、感情が破綻することもあります」

実力の8割出せばOK

感情労働には「副作用」がある。自分の感情を欺いているうちに、本来の自分らしさが失われたり、買い物やギャンブル依存に陥ったり、破壊衝動に襲われ、暴力をふるう人もいる。

しかも、同じ感情労働なのに来場者を楽しませようとするディズニーランドのキャスト(従業員)と違って、死や病気の恐怖に直面する患者の負の感情を相手にする。怒鳴ったり、暴力を振るったりする患者を相手に、治療に向けて前向きになってもらうのはより難しい。

元全日空のCAで、『いつもうまくいく人の感情の整理術』の著者、里岡美津奈さんは、各国の国家元首などのVIP特別機の担当乗務員を15年間務めた経験から、自分の感情を相手の感情に合わせて変えるのではなく、いつも一定に保つことが重要だと言う。

「お客様からクレームを受ける人は毎回同じで、感情が乱れている人でした。感情が乱れるとミスを連発しますし、人間は弱い者には攻撃したくなるんです」

だが、女性はもともと月経の前にイライラしやすいなど、ホルモンの変化で体調や感情が乱れやすい。さらにCAは時差やシフト勤務などで生活リズムが狂いがちだ。また、国際線のフライトでは、最短でも4日間日本を離れる。病気の家族やケンカ中の恋人などがいれば精神的に不安定になることもある。

里岡さんも20代の頃は失恋のショックからミスをしたこともあった。そこで、親戚の医師からアドバイスを受け、睡眠や食事、身だしなみを整えるようにすると、感情も安定するようになった。

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