「感情労働」の現場を生き延びる 心が疲れていませんか?

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人々の感情と常に向き合いながら、感情に引きずられないように冷静に仕事を行う。高い専門知識を身につけた心理職だからこその仕事だ。

行動タイプを把握

札幌市内のハウスメーカーに勤める藤原卓丈さん(37)も常に顧客の感情研究を忘れない。モデルハウスに来場した人々へ住宅をすすめる営業職をしているが、集客力もブランド力もない会社で、中途入社した当時は年間2棟を売るのが精いっぱいだった。その後、独自に顧客の感情をリサーチし、現在は月1棟のペースで住宅を販売するまでになった。

「全ての来場客は住宅営業マンが嫌いです。逃げ場がない中で近づいてきて、自社の商品を売り込んでくる。まずはお客さんの気持ちに寄り添い、不安を取り除くことが大切です」

母校から現在の家族構成まで細かく書き込んだ写真付きの自己紹介ハガキをつくって来場者に手渡し、向こうから共通点を探して話しかけてもらうのを待つ。大事なのは「共感」。先日契約が取れたのも「出身幼稚園が同じです」と話しかけてきた人だった。

商談、契約前後、工事中、引き渡しという流れの中で顧客の心理も変化する。例えば家を買う直前は不安で眠れない人もいる。「あなたの判断は正しかった」と不安を解消し、勇気づけるために、夜中でも見返せるよう書類と手紙を送る。

「相手の心を理解すれば、不安を取り除いて、喜びを与えることもできるんです」

ただ、感情の起伏が激しすぎる人や、どうしても合わない顧客がいたら、接客するのをやめるという。

「住宅営業は引き渡し後も長くお客さんとの関係が続きます。深刻なトラブルが起きる前に退く判断も必要です」

相手の感情に寄り添えと言われても、心の機微を理解するのは難しいし、ケースごとに変化する。コミュニケーション能力も個人差がある。

産業能率大学の横井真人教授はこう言う。

「感情は、行動を起こすスイッチ。例えば喜びや感動があれば購入や契約に結び付きます。相手と自分の性格や行動タイプを早めに把握して働き掛けることが、仕事をうまくスムーズに運ぶコツです」

自分の感情を正直に認めたうえで、相手に合わせる。ただ、心が擦り切れて最大の商品価値である「感情」を失う前に、退く勇気も忘れないように。

(AERA編集部:深澤友紀、ライター・今井明子、写真部:植田真紗美)

※AERA  2014年5月19日号
 

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