新政権はまず新型コロナ「指定感染症」の解除を 国民の疲弊と経済悪化・財政支援は限界に来た

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こうした消費の二極化が、企業倒産を増加させることが懸念される。仮に、「売上高が2割減少した状態が1年続けば倒産に追い込まれる」といった臨界点があるとしよう。この場合、リーマンショック後のように、需要減少が幅広い業界に広がるのであれば、倒産の臨界点に達する企業はそれほど増えない。ところが、コロナショック下のように、業績が急拡大した企業と、業績が急激に悪化した企業とに二分化すると、業績悪化グループに属する多くの企業が、倒産の臨界点を超えることになってしまう。

消費の二極化は、失業問題も深刻化させる可能性がある。労働市場からみると、業績が悪化した産業から業績が急拡大した産業に労働者が移動することで、消費需要の構造変化に対応しなければならない。しかし、わが国では、雇用の流動性が低いため、おそらく、これだけ急激で大幅な需要構造の変化に対応して労働移動を実現するのは難しい。業績悪化セクターで生じた失業者を、業績改善セクターで吸収することができなければ、大量のミスマッチ失業が発生するのである。

指定感染症の解除は急ぐ必要がある

これまでの新型コロナ対策は、ウイルスをいかに封じ込めるかという発想に立脚していた。指定感染症の指定もその一手段であった。しかし、過去半年の経験で、新型コロナを完全に制圧・終息させるのが困難なことは明らかである。わが国としては、何らかの形で新型コロナと共存する社会を再設計する必要に迫られている。その際、2つの共存方法が考えられる。

1つめは、現在のように、指定感染症を継続して経済・社会活動を抑制しながら、新型コロナの流行を最小限に抑えるという考え方である。この場合、景気悪化を流行抑制の必要コストとみなし、倒産と失業の増加を受け入れていくことになる。そして、所得減少の補償策として大規模な財政支出を定期的に行い、その財源としての赤字国債を日本銀行が引き受けるというMMT(現代貨幣理論)的な経済を構築していくことになる。

2つめは、指定感染症を解除して、季節性インフルエンザと同等の対応に変えることである。この場合、新型コロナの流行をある程度許容したうえで、平常通りの経済・社会活動に戻していくことになる。リスクの高い人の感染予防は最大限に行うが、季節性インフルエンザなど他の死因を大幅に超えるような死亡者数にならない限り、新型コロナを特別扱いしない。

私見では、社会的コストの大きさと持続可能性を勘案すれば、2つめのシナリオを選択するしかないと思う。1つめのシナリオは、倒産、失業、自殺、少子化など、犠牲が大きすぎる。加えて、財政・金融政策にも大きなリスクを抱え込むことになる。前述のとおり、日本人にとって新型コロナの死亡率が低かったことに加え、有効な診断・治療法も判明しつつある。コストとリスクを総合的に判断すれば、新型コロナ対策を軌道修正すべきである。

新政権は、指定感染症をなるべく早く解除したほうがよい。いったん倒産や失業が増加し始めたら、経済の下落トレンドに歯止めをかけるのが難しくなる。幸い、指定感染症の解除は、法律改正ではなく政令によって実現可能である。所得環境が堅調な間に国民の萎縮心理に働きかけて、経済・社会を正常化させることが望まれる。

枩村 秀樹 日本総合研究所 調査部長・チーフエコノミスト

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まつむら ひでき / Hideki Matsumura

日本総合研究所 調査部長・チーフエコノミスト。1992年東京大学経済学部卒業、住友銀行入行。1995年日本経済研究センターに出向。韓国・タイ経済、日本経済、少子高齢化・産業構造変化などを担当。2014年内閣府 経済財政諮問会議 民間議員室に出向。2016年日本総合研究所マクロ経済研究センター所長、2019年7月から現職。

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