筆者は9月4日の東洋経済オンラインのコラム『「誰でもPCR」は公費の大半を捨てることになる』で、PCR検査は「感染が疑われる人(=検査を最も必要とする人)が速やかに検査される」ために拡充すべきで、陰性を確認するための検査の拡大は、非効率で公費の無駄遣いであることを述べた。個人にとってそうした検査の結果にどのような意味があるのかも説明した。今回は、PCR検査で儲かる構造が作られてバブルとも呼べる状況が生まれていること、そのことが引き起こしている問題を指摘したい。
5月以降、症状がなくても、接触歴がなくても、医者がやりたいといえばPCR検査が公的保険でカバーされることになった。医療機関が診療の中でPCR検査をするには、大きく2つのパターンがある。
1つは、検体採取だけを医療機関で行い、その検体を民間の検査会社等に運んで実際のPCR検査はそこで行ってもらうやり方(外注検査)である。
もう1つは、検体採取から実際のPCR検査そのものまでを自分の施設で行うやり方(インハウス検査)である。診療報酬上は、前者の外注の場合は1万8000円、後者のインハウスの場合は1万3500円の診療報酬が検査ごとに医療機関に入る。しかし、外注の場合は民間の検査会社が1万8000円に近い額を持っていくので、医療機関に残る収益はあまりない。輸送料がかさむ場合などは、結果的に医療機関の持ち出しとなることさえある。
一方でインハウス検査の場合、試薬等のランニングコストは人件費を除けば8000円程度であり、1回に検査する検体数を増やせば1件当たりのコストはさらに低く抑えることができる。もちろん初期投資として機器の導入は必要だが、公費による全額補助の仕組みができたので、医療機関が負う投資リスクはかなり低くなっている。
インハウスのPCR検査は「打ち出の小槌」になった
このインハウス検査の参入障壁は、実際に手を動かせる検査技師を確保できるかどうかに大きく依存しているが、一度インハウス検査の体制が整えられれば検査すればするだけ医療機関は儲かる構造になっている。通常の保険診療では患者はかかった医療費の3割を自己負担することになるが、こと新型コロナウイルスのPCR検査に限っては、患者の自己負担分も税金で賄われる。
ここで重要なポイントがある。PCR検査というサービスを中心に見てみると、外注に頼らざるをえない多くの医療機関は、このサービスの買い手であって売り手ではない。医療機関が検査会社にお金を払ってPCR検査というサービスを提供してもらうのだ。
しかし、インハウス検査が可能な医療機関は、このサービスの買い手と売り手の二役を同時に担うことになる。医療機関がそのサービスを求め、医療機関自身がそのサービスを提供する。そして、その費用は保険と税金で賄われる。これは、PCR検査という打ち出の小槌を手にしたのと同じである。
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